ベビーパウダー山崎

マノンのベビーパウダー山崎のレビュー・感想・評価

マノン(1981年製作の映画)
4.0
東陽一の頑なにこだわるドキュメンタリー的なスタイルは本作が最もうまく行っていると思う。烏丸せつこを中心に、その周りでふわふわと浮遊する男性たちを映す映画になっていて、女性を追い込むほど歪んでいくいつもの東陽一映画とは描く角度が違っているため、それなりに「まとも」な作品になっている。それにしても80年代東京の風俗や景色を生々しく映像に刻んだ東陽一は、その点ではもっと評価されてよい。あの時代には存在したのだ、バニーガールの女性を見て楽しむ大人や若い女性にスッポンの血を飲ませてセックスに雪崩れ込んでいたオヤジが。それにしてこの時代の津川雅彦の毛穴から漏れ出す魅力、バブルを体現し、その後の滅びさえ見え隠れする危うさに濡れる。荒木一郎も素晴らしかった、金の匂いがする津川雅彦の対極には表現者(貧乏)荒木一郎がいる、その二人を愛してしまう(二人に愛されてしまう)烏丸せつこという図式が完璧。葬式が二度、どちらもロングでしっかり抑えているのは流石。津川雅彦が佐藤浩市をブチのめすくだりは、東陽一は暴力も迷わず撮れる恐ろしい作家だと分かる。東陽一映画の唐突な暴力と死、無意味ではなく何かしら東陽一の回路でしか理解できない理由がありそうなところがヤバ怖い。実は富裕層ではなく、集合団地で家族と暮らすただの庶民だったことがあらわになる終盤の津川雅彦の葬式がたまらなく寂しくて良い。好きだ嫌いだでバタバタしているが、その裏ではみなそれぞれ必死に生きている、脇のキャラクターまできちんと血が通っている。電車内での烏丸せつこと佐藤浩市のラスト、『恋恋風塵』の冒頭のショットに勝っているとは口が裂けても言えないが、この画で終わらせたロマンチスト東陽一を俺だけはスタンディングオベーションで送り出してあげたいと思った。