アンナ

ヒメアノ〜ルのアンナのレビュー・感想・評価

ヒメアノ〜ル(2016年製作の映画)
2.2
端的に最悪。原作読了済みで、感銘を受けたのでこちらも観たけど、最近原作ありコンテンツの脚本のあり方で色々問題が吹き上がってるがまさにその悪い部分を見た気分。
漫画未読で映画単体として楽しみたいなら観ていいかもしれないけど、サイコスリラー映画単体としての質も飛び抜けているわけではない。

だいぶ原作改変されてる。それについての是非は問わないが、最も大事な部分が毀損されてる印象。
正直映画だけ観てると、森田がやみくもに場当たり的に人を殺してレイプして…とやってるが、原作ではレイプシーンはない。少なくともそれが彼の主目的ではなく、所謂昨今の「弱者男性」の不満の発露みたいな文脈では全くない。

映画はいじめ経験のことばっかり取り上げられ、終始あらゆる原因点をそこに帰着させるストーリーだったけど、原作ではあの森田というモンスターの一要因ではあっても、全てではない、という感想だった。

原作では、社会的生物の人間として決定的に何かが足りない/壊れてしまっている森田という人間の苦悩や悲哀がきちんと掘り下げられており、一見ただのモンスターとしか認識できない者の中にある"人性"みたいなものが、古谷実の不条理でシニカルな筆致で丁寧に描かれていた。
けど映画ではそこを丸きり改変と無視がされており、新しい視点や価値観が掘り起こされない。

変に濡れ場も多いし、森田のレイプ衝動とかシーンが映画では加えられてて、何というかセンセーショナルにそういったものが安直に利用されてる印象もあり個人的には評価できない。

原作でも、大きな謎解きもカタルシスも森田という人間が形成された分かりやすい理由も明示されないが、映画は割とそういった理解不能なものに対しての表現や寄り添う視点と親和性があるメディアだと思うのに、なぜそれを放棄してこんなどこかで見たようなエンタメに仕上げたのか謎。

最後錯乱した森田のシーンでは、歪んじゃったけど、彼もいじめという経験がなければ普通のいい人だったのかも…みたいな余韻を残したラストは本当に最悪だと思う。原作のメッセージと真逆をいってる。

演技とキャスティングは良かった。岡田くんとゆかちゃんのアホアホいちゃいちゃカップルの間の抜けた空気感とかはよく再現されてた。「何を見せられてるんや…?」という気分にちゃんとしてくれる。
けど原作好きな分、ちょっと受け入れられないというか、脚本家なりがちゃんと骨子を理解できてないのでは?と感じてしまう点が多すぎた。
アンナ

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