レインウォッチャー

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ★アディオスのレインウォッチャーのレビュー・感想・評価

3.0
アディオス(adios)とは、再会の予定のない長いお別れの挨拶。

伝説のドキュメンタリー『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』から18年、メインメンバーであるキューバの老雄たちも多くが逝去し、バンドはラストツアーに出る。
今作は、その幕引きを追った続編となる。ヴィム・ヴェンダースは製作総指揮にまわり、監督はドキュメンタリー作家のルーシー・ウォーカーが務める。

総論、前作に比べればなんとも「普通の(あるいは真っ当な?)ドキュメンタリー」という印象。
資料映像多めで、前作の制作風景・裏話や、メンバーたちの若かりし頃を映したレガシー的フッテージも含まれる。内容自体は貴重だと思うけれど、ここから詩はきこえてこない。あくまで前作『BVSC』の付録といった様相が色濃く、TV特番かソフトに付いている特典映像といわれても違和感がない。

そんな中、女性ヴォーカリストのオマーラ(2023年現在まだご存命、92歳!)がふと口にする一言が刺さる。「この観客はなぜこんなに楽しめるの?これは苦悩の歌なのに」。

『BVSC』は社会現象となって、彼らはNYのカーネギーホールでも演奏した。今作のタイミングにおいては、オバマの歓迎も受けた。54年ぶりの国交回復、祝祭的ムードを、この作品も捉えている。
しかし、熱狂する観客のどれほどが、彼らとキューバの半生を知っているのだろうか。ブルースがそうであったように、ポップミュージック史における一過性の現象として、消費され忘れ去られてゆくのか。そんな一抹の、祭りの後のやるせなさ。(※1)

そのあたり、今作はあまりダイレクトには掘ってくれず、ちょっと残念ではある。
ただそれでも、同胞たちを送り出してなお「最期まで歌っていたい」という姿は含蓄がありすぎて痺れるし、アディオスの先があるような気持ちにさせてくれるのは確かだ。

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※1:個人的には、音楽(映画も)は思想や背景などから独立した美しさ楽しさがあって然るべき、必要十分だと思っている。
あえて言うなら、今作はそんなことを考えてしまう程度に「音楽」それ自体の影が薄い。