やわらか

この世界の片隅にのやわらかのレビュー・感想・評価

この世界の片隅に(2016年製作の映画)
4.5
結果的に2016年に観た映画で一番印象深い作品になりました。スコアについてはもろもろの個人的な関わりによる加点があるので、純粋な映画作品としては4.1か4.2ぐらい。ちなみに、2017年3月時点で原作は未読です。
 
前半、日々の生活で紡がれる家族の心情を丁寧に描いて、観客に登場人物への思い入れを持たせています。後半、映像と震動と音で爆撃の破壊力をこの上なくリアルに表現して、観客が両者の意味を考えるようにしていますね。特に音響面の効果を考えると映画館で観る価値があると思います。
 
すずと周作の関係はとても自然で、恋愛要素苦手な自分にとっても魅力的でした。が、一番好きなキャラは径子です。ずっと意地悪な分、後半の手を差し出すシーンで心が動かされます。ツンデレですね、ツンデレ。
 
主演ののん(本名:能年玲奈)さんはじめ声優陣はみなさん素晴らしいですね。方言を使った作品はたくさんありますが、この作品は地域ごとの微妙なアクセントの違いを出すなど、すごく工夫してました。私は中国地方に田舎があるのでとても懐かしい感じがしました。
 
ヒットの要因として、すずや周作の属する世代があると思います。すずは生きていれば現在91歳、自分をはじめこの作品のファン層であると思われる30-50代にとっては祖父母や両親に当たり、普通に家族として接した時間があります。
 
現在太平洋戦争について語ろうとすると、不毛なイデオロギー論議とセットになってしまい、個人的な意見の表明が非常に困難になっています。この作品は、戦争を祖父母や両親が実際に体験したであろう「時代」と「事実」として描いています。その自然な語り口を望む層が本作のファンのコアになっているのではないでしょうか。
  
私は11月、1月、3月の合計3回観ていますが、最後の観賞でそれまで理解できずもやもやした部分が、だいたいりん絡みのシーンだと確認できました。贔屓目で言えば、描かれなかった分が結果的に多層的な余韻を産むことに繋がってる気もします。
 
あらためて観ると、(たぶん)原作のキーキャラであるりんをこんな微妙な状態で出して、よく作品として成立してるなと思いますね。「エンディング後」で補完してるからかな?噂になっている、りん追加の完全版もぜひ観てみたいですね。
 
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以下、作品レビューと関係なく個人的に書きたいこと

○クラウドファンディング
ツイッターか何かでたまたま見かけた映画のクラウドファンディングに参加しました。制作報告の手紙を観てもやってるんだな、ぐらいでしたが劇場に観に行くきっかけになりました。そして、実際に作品を観た後は、クレジットに載らない安いプランを選択した過去の自分に殺意を抱きました。。。たぶん今後観るたび毎回。。。

○コトリンゴさん
この映画でコトリンゴさんを知り、気に入ったので映画のサントラ以外のアルバムも何枚か買いました。3月のサントラ発売記念ライブに行きました。入口で片渕監督の花輪の写真を撮っていたら、となりに監督ご本人が立っておられて驚きました。曲の進行に合わせて対応する映画のシーンを流すなど、ファンを楽しませるいろんな演出があって嬉しかったです。
 
○ツイッター上のイラスト、コメント
公開後、非常に多くの人が作品の紹介をしたり、応援のイラストを描いたりしていました。これらを観るたびに、見落としていた新しい側面(りんの解釈など)を発見したりして、映画をもう一度観ているような気分になれました。
 
公開から半年間、本当に楽しかったな。監督はじめ、スタッフのみなさん、ありがとうございました。
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