荒野の狼

湯を沸かすほどの熱い愛の荒野の狼のレビュー・感想・評価

湯を沸かすほどの熱い愛(2016年製作の映画)
5.0
2016年公開で日本アカデミー賞をはじめ各賞を受賞した映画。題名「湯を沸かすほどの熱い愛」からは、‘絵にかいたような家族愛‘が描かれているものかもしれないと想像されたが、英訳された題名「Her Love Boils Bathwater彼女の愛がお風呂を沸かす」とあるように「湯」はお風呂のこと。主人公の宮沢りえ一家は銭湯を経営しており映画のポスターなどにも銭湯の写真があるので、私のように映画のラストシーンまで題名の意味がわからなかった人もあまりいないかもしれない。
本作はコメディ映画とされていることもあり、また映画の予告やポスターでも明るいコメディを想像させるが内容は深刻で、夫役のオダギリジョーの演技が時にコミカルであることを除けば、シリアスな内容で‘キャラメルポップコーン片手に観るような映画ではない’。作り手が(ブラック)ユーモアの感覚で挿入したとも受け取れるラストシーンや宮沢が犬の置物をよその家に投げるシーンはないほうが、全体をシャープにまとめられた印象。
本作は映画「八日目の蝉」で描かれたような‘離れてしまう母と幼い女の子の想い’が印象的で、特に本作の場合、娘から母への思慕について複数の年長の女性と少女のパターンが登場している。宮沢と母、宮沢と16歳の娘(杉咲花)、杉咲花と耳の不自由な女性(篠原ゆき子)宮沢と引き取ることになった小学生鮎子 ( 伊東蒼)、伊東蒼と母、宮沢の弁護士の娘とその死んだ母。これだけ複数のパターンが登場してもリアリティに欠けることが感じさせないのは、少女からの想いに共通性があるからで、特に回想シーンで何度か登場する(少女時代の)宮沢の母との別れのシーンは切ない。
本作は宮沢がみんなの「おかあちゃん」を演じ、いろんな人を支えていく姿を評価するレビューが多いが、私の中では宮沢の忘れられない母への想いに対する演技をこそ高く評価したい。きのこ帝国による主題歌「愛のゆくえ」の次のフレーズも少女の母への想いを感じながらじっくりと聞きたい。

花の名前を知るとき
あなたはいない
会いたいな
泣きたいな
でも全部抱きしめて生きてくの

本作では杉咲花の演技が素晴らしく、学校のいじめのため登校したくないとベッドで泣くシーン、盗まれた制服の返却を下着で抗議するシーン、篠原ゆき子を紹介される車中での宮沢との会話、篠原との手話などどれも胸を打つ(本作での宮沢の娘のいじめに対する突き放した姿勢は疑問で、私は娘が自殺でもしないかと心配であった)。
小学生の伊東蒼が宮沢一家に「もっと働きますから、家に置いてください」と哀願するシーンは、昨今の児童虐待の上、親に殺害された少女の事件などを彷彿させ、社会問題の提起になっている。
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