MasaichiYaguchi

疑惑のチャンピオンのMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

疑惑のチャンピオン(2015年製作の映画)
3.6
映画の冒頭、主人公が勝利するには熱望と野心、そして強い肺や脚力よりも心や根性が大事ということを説いていたが、その心が黒く染まっていたら、それは正しいと言えるのだろうか?
25歳の時にガンが発症し、それを克服してツール・ド・フランスを7連覇したサイクルロードのスーパースター、ランス・アームストロングの疑惑を追った本作は、女子テニスのシャラポラ選手のドーピング問題、国際オリンピック委員会で取り上げられたロシアの組織的で深刻なドーピング汚染が喧伝されている中、タイムリーな映画だと言える。
題材となっているツール・ド・フランスは、世界遺産モン・サン=ミシェルをスタートし、フランス国内を反時計回りに、スペイン、アンドラ、スイスの国境を越えながら、ゴールのパリを目指すという、総走行距離3519km、全21ステージで行われる過酷なレース。
第103回の今年は7月2日からスタートして24日まで行われる。
この作品を観ていると、主人公のランスは、初めは自転車に乗るのが好きな青年だったのが、勝利への執念が人一倍強くて誤った方向へ道を踏み外してしまったように思う。
ましてや、ツール・ド・フランスでチームを含めて自分が軌道に乗り始めた矢先にガンが発症してしまったので、その失意や焦りは想像に難くない。
そんな彼が救いを求めたのがミケーレ・フェラーリ医師。
ここからこの医師による、原題にもなっている“プログラム”が始まる。
悪魔に魂を売って勝利を呼び寄せる彼を、スポーツマンシップやフェアプレイ精神を汚す悪人として断罪するのは簡単だが、ガンを克服した有名人としてガン患者を励ます等の慈善活動をしている姿を見ると複雑な心境になる。
彼はガン患者の希望として、サイクリング・ファンをはじめとした人々の憧れとして、そして自転車競技を牽引する者として、その役割を全うする為に勝ち続けるしかなかったのかもしれない。
本作のキャッチフレーズにもなっているが、彼はカリスマか、ペテン師なのか、オリンピック開催間近でスポーツと薬物使用がクローズアップされている今、その問題の複雑さと共に人間の深遠さを垣間見た思いがする。