Hiroki

バービーのHirokiのレビュー・感想・評価

バービー(2023年製作の映画)
3.8
公開1週間経たずの鑑賞後に“Barbenheimer”騒動とこれからの海外作品における日本市場の価値について書いていた、めちゃくちゃ長い文章が投稿前に全て消えました。
ダメージを引きずってたら今になってました。
もう一度書くのはあまりにもメンタルヘルスに良くないので、別角度から書きます。

まずは興収面を軽く。
まー言わずと知れた2023ベスト興行作品。
北米約6億ドル(約900億円)、全世界で14億ドル(約2,100億円)のメガヒット。
北米興収で『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』の約5.7億ドル(約850億円)を抜いてトップに。(しかもマリオが138日かかった所をわずか34日で達成!)
全世界でもマリオの約13億ドル(約1,900億円)を抜いてトップ。
また配給のワーナー・ブラザーズ作品でも北米では『ダークナイト』の約5億ドル(約740億円)を、全世界では『ハリー・ポッターと死の秘宝 PART2』の約13億ドルを抜いて歴代トップに。
それ以外にもたくさん冠がついてるのですがキリがないので割愛。
とにかく興収面では桁違い!

私はグレタ・ガーウィグのビッグファンなのですが、そもそも今作はプロデューサーであるローレンス・マークとユニバーサルの企画。
その権利がソニーに移っていく中で主演のバービー役もエイミー・シューマー、アン・ハサウェイ、ガル・ガドッドと移っていき最終的にはマーゴット・ロビーに。
脚本に関してはさらに複雑で元々はジェニー・ビックスが書いた本をディアブロ・コーディ、リンジー・ビール、バート・V・ロイヤル、ヒラリー・ウィンストン、オリヴィア・ミルチが次々と修正。
ここで製作も兼ねる事になったマーゴット・ロビー(とバービー人形の版元のマテル社)が動きワーナーにこの企画を売り込み、『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』を気に入っていたマーゴット・ロビーがグレタ・ガーウィグに監督兼脚本を打診して初めて公開時の形になる。(ちなみにグレタの条件はパートナーのノア・バームバックも脚本に加わる事だったらしい。)

この作品を観てまず驚いたのがバービー人形とその版元であるマテル社(とその上層部)に関してかなり批判的な要素がある事。
これは当初その事に否定的だったマテル社上層部にマーゴット・ロビーとグレタ・ガーウィグが「バービー人形やマテル社に関する問題も探るが、それと同様にバービー製品をリスペクトする」と伝えた事で許可が降りたらしい。
大企業と呼ばれエンタメ業界をリードしていくような会社がみんなこうだったらいいんですけどね...

内容的には少し前配信になったNetflixオリジナルのフランス映画『軽い男じゃないのよ』に似ている。
男女反転の物語なのだが、性別自体を反転させるのではなく、置かれる立場や環境を反転させるという。
ただ私はこのフランス映画のファンなので贔屓目もあるかもしれないが、テーマ自体では今作は遠く及ばない。
というか“バービーの世界(バービーランド)”があってそこでは女性優位(というかバービー優位)、一方“通常私たちが生きている世界”があってそこでは男性優位(現実を反映)、そこを行き来できてみたいなファンタジー設定なのでここだけでも結構理解するのが大変。
それに付随してルッキズム、家父長制、アイデンティティみたいなテーマもさらに加えられているので相当複雑です。
「男女反転のファンタジー」「女性の置かれた状況」「ラストの性別を超えた連帯」これをバービーという強力なアイコンを使って描く。これだけで良かった気がする。(ちなみにこれだけを描いているのが上記の『軽い男じゃないのよ』)
正直映画尺だとこれでフルじゃないかな?
これ以上描きたいならドラマシリーズとかにしないと伝えきれないと思う。

まーもちろん今作がこれだけヒットしている理由は、世界からピンクの塗料が無くなったという伝説を巻き起こしたアートワークなどの画としての強さ。
グレタ・ガーウィグのパートナーで今作の共同脚本ノア・バームバックの盟友ウェス・アンダーソンを思わせる横スクロールなど映像としてもとても素敵だった。
テンポ良くどんどんカットを続けていく撮影も相変わらずで114分を飽きさせない手腕もさすが。

しかししかし個人的に強く感じたのはグレタ・ガーウィグ味が薄い。
『レディ・バード』も『ストーリー・オブ・マイ・ライフ』も女性の進出と地位向上というメインテーマは同じであれ、マジョリティには馴染めないマイノリティで、どこかクラスの隅で他人には理解されないような自分の世界を大切にしている女性の物語だった。昔のグレタ・ガーウィグが投影されていた。
しかし今回は陽のパワーで満ち溢れるバービーとマーゴット・ロビー。もちろんそこに対するアンチテーゼもテーマに含まれる事はわかっている。
それでもやっぱりグレタ・ガーウィグのあの世界観が好きだった。
今回で言うと現実世界で出会う親子グロリア&サーシャ(アメリカ・フェレーラ&アリアナ・グリーンブラッド)の物語こそが彼女の作る世界の主人公。
様々な要素を考慮した結果だとは思うが、そこを広げきれなかったのが非常に残念。

あっちなみにマーク・ロンソンが音楽監督を務めた音楽は素晴らしかった!

ただこれでグレタ・ガーウィグは名実共にハリウッドを代表するクリエイターにステップアップした。
これからはかなり自分の意向で映画を撮る事も可能だろう。
今後彼女がどんな物語を作って私たちに観せてくれるのか目が離せません!

2023-56
Hiroki

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