オーウェン

日本列島のオーウェンのレビュー・感想・評価

日本列島(1965年製作の映画)
4.5
この映画「日本列島」は、日本におけるアメリカのCIAの謀略についての暴露を行なった作品ですね。

原作者の吉原公一郎は、政財界や在日米軍、自衛隊などの裏面の実態の研究者で、この映画の原作は小説の形式になっているが、作者がほぼ事実と考えることを、便宜上、小説の形式にして発表したものだと言われています。

この映画の監督・脚色をしたのは、かつて社会派の名匠と呼ばれた熊井啓で、彼は前年のデビュー作「帝銀事件・死刑囚」でも、占領中にアメリカ軍の情報機関の動きで、その真相追求が中断されたとみられる"帝銀事件"を、執拗な実証主義的な態度で調べ上げて映画化していましたが、同じ態度でこの「日本列島」を映画化していると思います。

熊井啓監督の真実を追求する姿勢が、この映画を日本におけるアメリカの謀略を、正面きって弾劾するという衝撃的な作品になっていると思います。

昭和34年秋、SキャンプのCID(犯罪調査課)のポラック中尉は、通訳の秋山(宇野重吉)に、東京湾に溺死体としてあがった調査員リミット曹長の事件を調査するよう命令した。

秋山は、かつて妻を米兵に強姦されて死なされたという、不幸な過去を持つ男だった。
そして、新聞記者の原島(二谷英明)も、この事件に関心を持って調べていた。

警視庁の刑事などから得た情報によれば、リミット曹長はヤミ・ドル事件の捜査をしていたらしい。
かつて日本軍の情報機関は、ドイツ製のザンメルという高級印刷機を使ってニセ・ドルを作っていたのだ。

伊集院少佐という人物が、その技術者であり、戦後、アメリカの情報機関が、この印刷機を手に入れ、伊集院元少佐に強制して再びニセ・ドルを作っている可能性があるらしいのだ。

そして、その情報機関の中心になっている日本人は涸沢と言う男らしいと、秋山と原島にはしだいに真相がわかってくる。

伊集院元少佐の娘・和子(芦川いづみ)に会い、涸沢の元部下の佐々木という男にも会うが、しかし、佐々木はまもなく何者かによって殺されてしまう。

情報機関は、単に政治的な謀略を行なうだけでなく、広く闇の経済網を握って、経済的な撹乱工作もやっていたということがわかってくる。

その一端には、ある外国の教会もつながっていたが、そこの神父が恋人の日本人のスチュワーデスを殺した時にも、警視庁は容疑者の神父を逮捕出来ず、みすみす国外に逃がしてしまったという事件もあったのだ。

このように、情報機関は巨大な権力を握っていて、アメリカ軍でさえ手が出なかった。
このような状況下において、秋山は、突然、ポラック中尉から調査の打ち切りを命令されたが、その理由については明らかにされなかった。

しかし、今や深い憤りを持って事件に深くのめり込んでいた秋山は、調査をやめることなどできなかった。

そして、伊集院元少佐が、どうも沖縄にいるらしいとの情報をつかみ、秋山は、一人で沖縄へと飛んだのだった。
そして、しばらくの後、沖縄のゴミ捨て地で、秋山の死体がひっそりと眠るように横たわっていた。

この映画は、何よりもまず、テーマの大胆さで観る者を驚愕させ、単なる暴露やサスペンスだけでなく、謀略に対する憎悪が作品の隅々に漲っていて、沈痛な情感を醸し出していることが、この作品の価値を高めているように思います。

映画的には、命懸けで沖縄へ行こうとする秋山が、和子と別れる場面などは、特に悲愴な情感があって、実にいい場面だったと思います。
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