やわらか

ブルーに生まれついてのやわらかのレビュー・感想・評価

ブルーに生まれついて(2015年製作の映画)
4.2
白人のジャズトランペッター、チェット・ベイカーの半生をテーマにした、哀しく美しい作品。これまで僕が観た、音楽をテーマにした作品の中でも、最高の部類の一本だと思う。

まず、音楽面。作品中に何度も演奏シーンがあるけど、それぞれ、駆け出しの頃のヘロヘロの音だったり、哀愁を乗せた枯れたプレイであったり、艶のある甘い響きであったりと、言葉を使わず、トランペットの音色でその時のチェットの状態を完璧に表わす。

僕はふだんからジャズを聴くけど、エレクトリック以降のやつが中心でチェットのようなしっとりしたスタイルは苦手。でも、この映画で聴ける各楽器の音自体はとてもていねいに録られていて、単体の演奏としても十分に聴けるものだった。(某ヒットミュージカル映画とか「舐めトンかいっ?」って言いたくなるけど。。。)

映画としてみると、チェットの架空の恋人を設定して、安定した生活と退廃した芸術を対比させ、表現者としての苦しみを上手く描いている。あと、劇中劇を多用したり(実際に録られたチェットの伝記映画撮影シーンから始まる)、若き日のチェットのエピソードを挟んだりとかなり凝った作りになっていて、映画としても楽しめる。

僕は映画を観た時点では、チェットの後半生や亡くなり方を知らなかったので、最後のシーンでどちらを選択するかが分からずドキドキしたけれど、音と楽屋の様子が示すものを感じて、締めつけられるような思いがした。

この作品のために、自身で歌を披露し、トランペットを吹く演技(当て振り)を見せたイーサン・ホークはスバラシイ。僕はトランペット弾かないから細かいところは分からないけど、少なくとも演奏上で全然違和感なかった。

こういう、ジャズというマーケットの中から凄い音楽作品が出てくるのは、アメリカの芸の深さだよなーと改めて感心する。
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