「示唆に富む」とはこの作品のことだ。
自省しろ、と問われている。
ヒトラーが現代に蘇ったら、という設定の妙と見せかけながら、我々に「鏡を見ろ」と問いかける問題作だった。
国としては稼いでいるように見えても、国民は不満だらけで、その不満は移民に向けられる。
福祉も行き届いているようで、不公平感がある。
利潤を追求して、コストを抑えてきた結果、労働の対価は下がる一方という事実。
いわゆる先進国には、共通の問題だろう。
だから、この映画の問題はドイツだけの問題ではなく、共通の問題だ。
特に「日本スゴイ」ブームの日本には、耳の痛い映画であるはずだ。
スゴイものばかりが強調されるが、報道の自由ランキングとか、女性進出ランキングはどうなのか。一人あたりの教育予算はどうなのか。
ドイツやヨーロッパの排外主義や民族主義は、他人事なのか。
ナチスを礼賛すること自体が罪になるドイツで、こういう表現をしたことが、そもそも偉い。表現の自由を守り、表現の問題は素材そのものではなく「どう表現するか」であるということを作品にしている。
そして、ヒトラーの罪だけにせず、支持した国民の罪を認めている姿勢にこそ、学ぶところはある。
教育勅語を支持するかのような、日本政府は、これを見ても何も感じないのだろう。