阪本嘉一好子

ポストヒューマスの阪本嘉一好子のネタバレレビュー・内容・結末

ポストヒューマス(2014年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

『死後』というタイトルの映画。
芸術と恋愛物語で、一目惚れでなくコミュニケーションを通して人を好きになっていくという恋愛の手法が大好きだ。それに、登場人物の考え方や価値観の違いを個人的に楽しんだ。それに、リアム(ジャック・ヒューストン)の描くモダンアートに彼の心の中の勢いやぶつかりあう状態がよく現れているので好きだった。それに、彼のアートスタジオのセンスの良さ!また、彼の作品作りのダイナミックさ!好きだなこの映画。
最後の方で、彼が彼女を描いて、そして、ベンチで寝てしまう。彼女が現れてからの二人の会話は最も私の心をうった。(この映画を見ればわかる)

レビューの詳細を誰も書いてないので、あらすじと一番気に入った箇所を書くことにした。
リアム・プライスはモダンアートの芸術家。アクセントから想像してUKから。
ベルリンのあるアートギャラリーが誰かのデジタル・アートの特別展にかわってしまったが、人気を集めている。画廊主ダニエル(ランバート・ウイルソン)が興行成績を上げたくて変えた。この画廊は長い間、売上も悪く、リアムの絵画や彫刻が全く利益をもたらさないようだ。リアムは画廊の奥にある展示物を保管してある場所で、自分の絵画を破壊する。そして、画廊の外で、自分の作品に火をつける。
ここを通りかかったアメリカのレポーター、マッケンジー(美術のジャーナリスト)が不審に思いここから二人のストーリーが始まる。作品のいくつかをリアムのホームページで見て、画廊にコンタクトしてくる。

リアムは酔って路上でホームレスに彼の所有物を盗まれてしまう。そのホームレスがなくなったのを、リアムがなくなったと解釈して死体検証を画廊の助手(トム・シリング)にさせるが、助手は全くの臆病でその死体を見ることも検証することさえできず、『リアムのだ』言う。

リアムの死後、彼の絵の価値が上がる。マッケンジー(ブリット・マーリング)は助手がアップロードした絵画が気に入り、リアムに興味を持って直接コンタクトをするが、彼の弟と称するジャクソン(ジャック・ヒューストン)にあう。弟にリアムの芸術家としての才能やストーリーを聞き出し、レポートしたいことを元働いていた編集長に伝える。

金儲けが頭にある画廊の主人はある時、リアムが生きていたことを知っても死んだとマスコミに伝える。

マッケンジーはボーイフレンド、エリック(アレクサンダー・フェーリング、)にリアムが生きているかもしれないので、これをストーリにしたいことを伝えるが、全く関心を示さない。マッケンジーが美術ジャーナルの会社を辞めたのではなく、クビになったと言っても、エリックの反応はそれがどうしたというようだ。彼女のプロフェッショナリズムはどうでもいいようだ。それより、仕事ができることを証明したいのだろうと。他の場面でも、エリックはマッケンジーに(自分の話せる)ドイツ語は難しいからやめろと。二人の関係は続いていてもお互いの考えていることや価値観が違って噛み合っていない。エリックは『なんでも、話してくれ』と言いながら、彼女がリアムのストーリーを見つけ、随筆に、また情熱を持ったことを話すと、彼は理解できなそうだ。このマッケンジーの歯痒い様子が映画でよくわかる。本当に、わかるなあ。

ある場面ではマッケンジーが次々とするリアムの質問に画廊主ダニエルは答えられない。でも彼はリアムとは友達だという。あら、不思議。

しかし、ジャクソン(リアム)にあって、二人乗りして自転車で連れて行かれた、ベルリンが見下ろせるような場所での会話ではジャクソンの質問や答えにマッケンジーは戸惑ってしまっている。世俗的な価値観を持っていないジャクソンに。例えば、『気が滅入る場所』という彼女の言い方に、『歴史の中に大変なことはあらゆるコーナーにあり』と。そして、『満足感は死を意味する』と。全ての捉え方が、彼の現実で成り立っている。芸術は金や名誉ではなく、皆がすきか、好かれるかではなく、『feeling something』だと。なんでもそうだと。世界が本物の感情から離れてしまっていると。そして、本当に会話ができなくなってしまっていると。嘘つきあっていて、自分にも嘘をついていて、本心を言わないと。。。。。(これはマッケンジーとエリックのことでもあり、今の社会の人間関係の問題点でもある)Life dedicated to something greater than himself.
ジャクソン(リアム)の哲学が好き。脚本がいい。

愛ってただ、この映画のように、収入のあるエリックについていくというものではない。それでも、愛があるから悪くない。しかし、マッケンジーのように自分に何か情熱があって、挑戦したかったらそのままでいていいのだろうか。エリックはマッケンジーのどこを愛していたのか?自分の思うように彼女のために考えてあげていたと思う。でも、彼女の思うように、彼女の気持ちを彼女の立場になって考えていたのだろうか。マッケンジーの言葉で『Perfect』のエリックを捨てて、リアムにこころが動く理由は?その答えがこの映画にある。私は、この映画はそれぞれの会話の中で人間の生き方を発見できると思う。何度でも、登場人物の言葉を噛み締めたい映画。

https://www.youtube.com/watch?v=aCBPlJicc9g
 Asaf Avidan