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映像の魔術師 オーソン・ウェルズのmegurosのレビュー・感想・評価

3.8
「MANK」鑑賞後に、オーソン・ウェルズその人は評価され過ぎていたのかも?等と一瞬思ってしまっていたが、いやはややはり大天才であったことがよくわかった。同時に、「この世には彼に見合う王国がない」とも嘆かれるように、凡人が天才を殺す構造が人類社会に普遍的に存在するものだということもよくわかった。

同級生の証言では、ウェルズは幼き頃から神童で「モーツァルトが4歳で作曲していたように、11歳で聖書・中国・シェークスピアに精通」していたと語られ、その強烈な個性と推進力・求心力によって周囲を巻き込みながら、その後各領域の表現においてイノベーションを起こしてきた。

演劇からラジオへ。ラジオではかの有名な”宇宙戦争”によって一躍時の人となって世間を騒がし、映画界においては初監督作にして映画史不朽の名作「市民ケーン」を手がける。スピルバーグやリンクレイター、スコセッシ、ルーカスが登場し、後の映画監督においてウェルズの影響下にない監督はいないとも語られるが、当時はスタジオに編集権を握られ、その功績がその時代において正当に顕在化されてこなかったこともあったのだろう。後に監督たちがファイナルカット権を主張していくその運動の源流、さらにはビックスタジオの外に出て映画製作を行う(正にリンクレイターが参考にしていたが)インディーズ映画の起源もここにあったのだと初めて知った。

「黒い罠」については、残されていた編集ノートを元に当初ウェルズが意図したことをウォルター・マーチが再編集・再現した完全修復版がある様子。「偉大なるアンバーソン家の人々」等もDirector’s Cutなどがもしあるなら是非見てみたい。
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