くりふ

バジュランギおじさんと、小さな迷子のくりふのレビュー・感想・評価

4.0
【印パ越境ファンタジー】

初公開時に見逃したが、キチンと劇場で見たいな…と後回しにしていたら、リバイバル公開してくれた。

しかしもう、制作から10年近く経つんだね。当時6歳のシャヒーダーを演じたハルシャーリーちゃんも今では大きく育ちました。動画などを見ると映画のイメージまんま、サイズだけ大きくなったかんじですね。

本作、巧い映画ではなく朴訥としたつくりだと思った。だから感動させるための作為も目立つ。最後の再会など、どうみても事前に会えるよう段取るだろうに、彼女の“台詞”が成り立たないからああしたのね…と、見ていて気づいてしまう。あと、ナワさんの役などは唐突に変心し過ぎ、介入し過ぎだと思った。

等々、気になるところもあるがやっぱり、“ええ話や〜”だった。10年過ぎて、現実の印パから見ればより、ファンタジー色が強まっているけれど。

本作が、ヒンドゥー至上主義を掲げるモディ政権が始まって翌年に作られた、ということに意味はあると思うけれど、映画の願いとは裏腹に、宗教差別もカシミール問題も、10年経ってもズブズブみたいだね。

どの宗教であれ、人間は神の被造物、との教義を信仰する以上、どこまでも差別はなくならず、自分の神に反する“物”は潰してかまへん…という殺し合いはずっと続くことでしょう。原理主義が悪いのではなく、信仰で心がそう染まってしまうから、本人にも制御不能なんだよね。

サルマン演じるパワンをハヌマーン信者としたのは、ハヌマーンをシンボルとする過激派組織バジュラン・ダルから、本来?のハヌマーンを取り戻そう、という狙いらしい。パワンの父親が居た“民族義勇団”もヒンドゥー至上主義団体で、モディさんもココ出身なんだってね。

なるほどーとアクチュアルな設定に感心するが、病根には触れようとしないからなあ…。

パキスタンにすごく気を遣っているとは思ったが、そもそもが、パのムスリムが印で困っているのをヒンドゥー信者が助ける話。仮にこの逆が、メジャーのボリウッド映画で成り立つだろうか?なんてコトも考えてしまった。

サルマン兄貴はよかったが、ビミョー。この役がよりハマる男優は他にいると思った。

カリーナ姐さんは…ゴメン、私、やっぱりこの人、美人の範疇に思えない。活躍度は、インドのヒロインあるあるだけど、途中から退場したも同然となって、勿体ないなあと思った。

本作のシンボルであるハルシャーリーちゃんは、鮮やかな魅力をふりまきますが、それは演出のおかげで、少なくともそこだけは、本作が巧いなあ、と思ったところでした。

それにしても、朴訥と書きましたが、最後のショットを“バレットタイム”で締めるとは思わなかったよ!

<2024.5.19記>
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