ジャンキーの意見

バッド・ラップのジャンキーの意見のレビュー・感想・評価

バッド・ラップ(2016年製作の映画)
4.7
ヒップホップのドキュメンタリー数あれどこれは出色の面白さ。まあなにより着目点がね。
もともとは黒人音楽として、黒人の有徴性がウリではあったヒップホップだけれども、メインストリーム化に伴って人種をめぐる政治的バランスもこんなふうに変化してきたのかと。アジア系のラッパーはヒップホップ界では今はまだマイノリティで、見た目でも色眼鏡で見られるのだけど、そこを逆手にとってバトルで反撃していくのがなかなかに痛快。アジア人の見た目をおちょくられたとしても、バトルの場ではヘイトスピーチとまではいかないギリギリの線で、決してそのディスりが「排除」に決してならないところが、ヒップホップの危うくも懐の深い文化としての魅力であるかもしれない。「米でも炊いてろ」ってバトルの場で言われることと、在特会が「キムチ臭えんだよ韓国人」と罵詈雑言をまき散らすこととの間には決定的な差がある。それは、バトルというヒップホップの文化実践の一つが、悪口を言っているようにみえても、同じヒップホップという土俵の上に立っているということにおいて本質的に、異なる他者が社会に存在することそのものへの批評的思考へのベクトルを持っているからだろう。もちろん、アジア人に対して「米炊いてろ」みたいなフリスタしかできないのはまだまだ成熟しているとはいえないけど、まあ根本的にはレイシズムにはならないし、それに対してかなり気の利いた返しをすることで、ステレオタイプ思考を乗り越える「エデュテイメント」の相互作用が現前しているのがマジで刺激的なところ。
あと本筋とあんま関係ないけど「真のギャングスタはビールじゃなくてコーヒーを飲む」とか言ってるのがなんか渋かった。