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パニック・イン・テキサスタワーのMOCOのレビュー・感想・評価

4.0
「戦争でも始めるほどの弾を買っていることを変だとは思わなかったのか?」(捜査官)
「客が求めるものを売っているだけですよ。それが法律違反なんですか?」(銃砲店店主)
「大勢の人が殺されていることをどう思うのかね?」
「客の目的なんか分かるはずないですよ」

 特殊部隊S.W.A.Tが創設されるきっかけになった1966年の『テキサスタワー乱射事件』のドキュメンタリー風TV映画です。後に制作される「パニック・イン・スタジアム」などに影響を与える映画です。

 1975年にアメリカで放送されているので、私が中学3年か高校1年位の時に「最新!日本未公開傑作選」として一度だけTV放送されたのを観たようです。

 厳格な父親の元で育った犯人は元アメリカ海兵隊伍長で一級射手の資格を習得した後、除隊し1961年にテキサス大学に入学、在学中に結婚したのですが成績が悪く入学当初受けていた海軍下士官科学教育プログラム の奨学金受給資格を失います。
  1966年に両親が離婚し、その頃から発作的な暴力衝動や激しい頭痛に悩まされるようになり、事件を起こす直前には妻(17歳)と母親が事件後に迫害にあうことを怖れて二人を殺害しています。
 事件前に書き残した遺書にはそんな内容と共に自分の遺体解剖を希望しており、脳の視床下部にくるみ大の腫瘍が発見されたようです。

 主人公はメキシコ人の警官ラミロ・マルティネス、人種差別の壁の中でもがきながら、命を失うことも省みず正義感から犯人(犯罪)に立ち向かって行きます。


 警官ラミロ・マルティネスは夜勤明けで帰宅する直前、上司から昇進試験に受からなかったことを知らされます。
 試験に受かったのは同僚のアメリカ人二人。署内では評価が高いラミロはメキシコ人のため受からなかったのです。

 海兵隊を除隊し、テキサス大学で建築を学ぶ大学院生のチャールズ・ホイットマンは、実の母を実家・妻を自宅でナイフで殺害、タイプライターで遺書を作成し銃砲店で大量の銃と銃弾を購入して、街のシンボルでもある大学の時計塔に向かいます。

 エレベーター最上階の受付で大きな木箱の持ち込みをとがめられたチャールズは、受付の女性に「命が惜しければここに戻ってくるな」と言い、乗ってきたエレベーターに彼女を押し込むとさらに階段で階上へと向かいます。
 受付嬢の知らせで駆けつけた警備員が最上階のバルコニーの扉を開けるとそこに木箱に入った大量の武器を発見し、警備主任に連絡をとっているときに眺望を楽しみにバルコニーに入ろうとした2人が銃の犠牲になり、無差別殺人の幕が上がります。
 チャールズは、バルコニーのドアを封鎖して地上90メートルの高さから銃を乱射、多くの人々が銃弾に倒れキャンパスは一瞬にしてパニックに陥ります。
 一級射手のチャールズが高性能のライフルから放つ銃弾はキャンパスだけにとどまらず、スコープの中で蟻のように動く街の人々にも向けられ、警察官はタワーに近づくことを拒まれます。

 夜勤明けの非番で自宅に帰ったラミロは妊娠中の妻に昇進がないことを告げ、転職を考えはじめるのですが、ラジオのニュースを聞き妻の制止を振り切って現場へ駆けつけます。

 事件発生後わずか20分で30人が撃たれ10人が死亡、警察官にも犠牲者が・・・。
 現場の指揮を執るフレッド警部は、セスナからの射殺を試みるのですが、セスナはライフル弾をあびてしまいます。

 駆けつけたラミロはタワー内への侵入を試みます。
 ラミロは銃弾をかわしながらタワー内に潜入すると、同じ様に別の警察官とタワーに進入した大学の書店員で元空軍のアレン・クラムチャールズとタワーを登りチャールズのいるバルコニーの扉を開くことに成功します。

 塔の外周を取り巻くバルコニーを時計回りに慎重に進んだラミロは、自分とは逆方向から突入してくると予想して銃を構えるチャールズを確認し引き金を・・・。


 いつの日か「もう一度観たい」という願いが通じたのか『復刻シネマライブラリー』(販売数が読めないために受注生産しての販売)のタイトルリストにこの映画のタイトルを発見し印刷物で内容を確認できた時は大興奮でした。
 
 犯人のチャールズ・ホイットマンを演じるのはデビュー間もないカート・ラッセル、ほとんど無言ですが渋い演技です。DVDを手に入れるまで全く知りませんでした。

 ラミロ等3人の巡査は名誉勲章・アレンは名誉市民賞が与えられラミロは後にテキサス州警備隊員に・・・。
 そして事件から50年の節目になる2016年にはキャンパスに被害者の名前が刻まれた記念碑が設置され、オースティン市は「ラミロ・マルティネスの日」を設定しています。
 小学生・中学生の時、差別を嫌う先生にアメリカ人のひどい人種差別の話を聞かされていた分、ラミロの受けていた差別への憤りを強く感じながらエンディングで喜んだ映画でした。

 改めて観てみると、タワーからの発砲に、応援を頼まれた訳でもなく応戦するのは沢山の一般人、夢中で犯人に向けてライフルを射つ人たちを見てラミロが「この人たちは誰だ?」と口にするのですが、身を守る名目で所有する銃で、ここぞとばかりに人間狩りを正当化して引き金を引く『人間の恐ろしさ』を感じてしまいました。

 思い入れがあるからでしょうけど、見ごたえのある映画です。
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