らんら

ブラック・スワンのらんらのレビュー・感想・評価

ブラック・スワン(2010年製作の映画)
3.9
サイコスリラーとして大満足な映画。

今敏監督の「パーフェクトブルー」から影響を受けていることは間違いないと思います。

「バレエ」って観客やあまりよく知らない人からすると綺麗で華やかなイメージが強いと思うんですけど、実際トゥシューズを脱ぐと外反母趾だったり爪が折れてぐちゃぐちゃになっていたりタイツに血が滲んでいたり膝に青タンができてたりっていうのが当たり前なんですよね。結構グロい。
キシキシと軋むトゥシューズの音が生々しくて痛々しくて、ウッとなります。
華やかに見えて心身共に酷使する「バレエ」
を題材にしたのが素晴らしいなと思います。

純粋だった主人公がどんどん役に飲まれていき「白鳥」から「黒鳥」へと変貌する。グロテスクだけれどとても美しい描写でした。

一見、主人公のニナは「黒鳥」という堕落したファム・ファタールを演じている内にその役に飲まれて精神を病んでいったかのように思えますが、
実際のところ、元々ニナは白鳥の面と黒鳥の面を併せ持っていました。演出家のトマもそれを見抜いて彼女を主役に抜擢したのでしょう。
母親の夢を叶えてあげたいという自分と、母親から逃れたいという自分。
禁欲的で真面目な自分と、性行為に耽りたいという欲情的な自分。
本来人間は誰しも「意識」とそれに反しようとする「無意識」を併せ持っているものですが、ニナの場合抑圧された環境にいた上に様々なストレスが重なって「無意識」が「意識」を淘汰しようとしたのです。その人間の二面性と、崩壊をとても上手く描いていました。

主人公のオデット(白鳥)と悪役のオディール(黒鳥)を同一人物が演じるのがデフォルトである「白鳥の湖」を演目として選んだのも、上手いなと思います。

幸薄そうで儚げな雰囲気も、情熱的で官能的な雰囲気も、両方似合うナタリー・ポートマンは本当にハマり役でした。

最後の踊りは鳥肌がたつくらい美しく、気持ちのいいラストでした。この手の映画には珍しい、爽快感のあるラストです。
らんら

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