Ricola

婚約者たちのRicolaのレビュー・感想・評価

婚約者たち(1963年製作の映画)
4.3
前作同様に、労働者の憂いと戦後復興期の社会の影を描いたような作品である。

説明的な表現はほとんどなく、リアルとファンタジーの部分が全体を通すとバランスが良い。
ときに現実と非現実が溶け合うような感覚におちいるのが、こういった類いの作品では珍しい気がする。


主人公の婚約者であるリリアナの回想というか思い出していることが視覚的に映される一方で、ダンス会場で流れている陽気な音楽はそのまま前の場面から引き継ぐ。
ここにいるのだけど、心ではあれこれ考えていることを表しているのだろう。
男と向き合ってぐるぐる回りながら踊る彼女が浮かない表情をしているのもそのためだろう。

音楽、BGMの使われ方が印象的なシーンが多い。
主人公が夜にふらっと入ったカフェでは、運動会で流れていそうな慌てたような音楽が流れている。
そこで店主らしき女性がゆっくりしているのに対して、早く帰りたくて急いで仕事を済まそうとする少年の動きが、音楽によって滑稽に演出されている。

また、音楽ではないが、宣伝カーから聞こえてくる声、からの教会での子どもたちの歌声と声に導かれる主人公。
やはりポストネオレアリズモと言われることに納得がいくような、偶然が偶然を呼んだような演出が、軽快であってなんだかスタイリッシュでもある。

リリアナの手紙の内容は、彼女が物憂げに語る声だけでなく表情も映される。
その彼女の顔を長回しでとらえることで、ちょっとした感情のムラや変化をカメラは見逃さないのだ。

彼らのやり取りから、二人の楽しい思い出も挿入される。
二人が向き合い、語り合いキスをする。
離れていても心は一緒であるということを表しているのはもちろんだろう。
そこで彼らを包み込むピンボケした背景がその場をより盛り上げる。
やはりこれは非現実なのだと、ピンボケさせることで強調しているようにも思える。

ものすごい雨風を、険しい表情で見つめる子どもたち。
これから歩むであろう道のりの険しさを示しているのだ。
現実の厳しさを自然の厳しさに換喩することによって、示唆するのは特にオルミらしい演出だと思った。
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