YosukeIdo

愚行録のYosukeIdoのレビュー・感想・評価

愚行録(2017年製作の映画)
4.4
感想を以下ブログ「シネフィル倶楽部」にて掲載中。

■愚行録
http://ameblo.jp/cinefil-club/entry-12250710003.html

「仕掛けられた3度の衝撃」

「イヤミス」というジャンルの極みを描いた作品。

その嫌な感じや怖さ、衝撃を全て観客である我々に還元してくる巧みな造りになっている映画。

そして、静か過ぎて怖い映画。

観終わった後は、目はくたくた、唇はかっさかさです。

始めから終わりまで、ずっと────本当にずっと────半開きの口でスクリーンを凝視する羽目になったからです。

画面から1秒たりとも目が離せなかった。
それは望んでそうした訳ではなく、そうさせられた、そうせざるを得なかったという方が正しいでしょう。

ただ。

観終わって思うのは、この映画を観に行ったというより自分がこの映画にジッと観られていたのかもなぁ────という事でした。

「お前の愚かさはどこだ?」と。

なかなか嫌な気持ちにはなりますが、それを十二分に取り返せるくらいに観る甲斐のある映画だと思っています。

『愚行録』
(2017)

手放しでこの作品を絶賛する自分が良いのか悪いのかというところですが(笑)

このレビューはこの作品を観たその日、もっと言えば観終わって1時間以内に勢いで書き上げました。
なんか言葉が出てくる出てくる(笑)


静か過ぎて怖い───。

世の中にはそういう表現がありますよね。

この映画は正にそれです。

まったくもって派手さは無い。

皆無です。文字通り全く無い。

陰惨な殺人事件とそれを解き明かそうとするミステリーみたいな要素がありつつ「動」の要素はゼロ。
事件の再現も特になく、そういう描写という意味でのエグみはありません。

極端に言えば、ほとんど会話劇に近いと言ってもいいです。
演者は定位置で喋りと表情だけで物語を進めて行くんです。

その証拠にエンドロールが非常に短い。

派手な事をやればやろうとする程、出演者も裏方もどんどん人の手がかかるからエンドロールが長くなります。
(マーベル・シリーズ映画の長いこと長いこと!笑)

そんな、全く画に動きの無い映画なのにも関わらず、全くもってスクリーンから目を離すことができませんでした。


画面から漲る緊張感。

何かあると思わせつつ、ある意味この世にはどこかにある話なんだろうと思わせる前半。

それに対してこの映画が掲げる「仕掛けられた3度の衝撃」という惹き文句が頭を過ぎるので、気を抜けない。

そして役者の説得力あり過ぎて怖いほどの演技もあり、その結果─────目がくたくたです。


ちなみに仕掛けられたネタは衝撃というよりは、じわりと厭な汗をかく感じです。

そして、どうやら小説とは異なる仕掛けがあるみたいですね。

これはねぇ、仕掛けも含めて全編ネタバレしたくないので、本当に観た人と話したい。

なので、この映画の深いところまでは紹介し切れていません。

惹き文句のみのレビューになっていますので、ご了承を。

それでも、いつも通りあらすじから参りましょう。



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■『愚行録』あらすじ
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理想的な家族は、誰に殺されたのか?

それぞれの証言から浮かび上がる【人間の本性】とは――。


エリートサラリーマンの夫、美人で完璧な妻、そして可愛い一人娘の田向(たこう)一家。

絵に描いたように幸せな家族を襲った一家惨殺事件は迷宮入りしたまま一年が過ぎた。

週刊誌の記者である田中 (妻夫木 聡)は、改めて事件の真相に迫ろうと取材を開始する。


殺害された夫・田向浩樹 (小出恵介) の会社同僚の渡辺正人 (眞島秀和) 。

妻・友希恵 (松本若菜) の大学同期であった宮村淳子 (臼田あさ美) 。

その淳子の恋人であった尾形孝之 (中村倫也) 。

そして、大学時代の浩樹と付き合っていた稲村恵美 (市川由衣) 。


ところが、関係者たちの証言から浮かび上がってきたのは、理想的と思われた夫婦の見た目からはかけ離れた実像、そして、証言者たち自らの思いもよらない姿であった。

その一方で、田中も問題を抱えている。

妹の光子 (満島ひかり) が育児放棄の疑いで逮捕されていたのだ――。


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■映画冒頭の凄さ
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冒頭がね、もうすごいんです!!!!

この映画を評価すると、この冒頭で決めていた気がします。

これもなんだろう、、、書いちゃうと勿体ないので、詳細は書きません。

一応言っておくと、何か驚く事が起こる訳ではありません。

ただ、「抗えない正論を突き付けられた時に、邪論で仕返ししてやりたい、やり込めたい」

そんな愚かな考えを、ある意味では鮮やか過ぎる程に描いているという事。



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■この映画の巧さ
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本作、肝心なところはセリフにしていません。

映画が進むにつれ段々と色んな事が明らかになっていきますが、その事実などを台詞として明文化していません。

その事実が明らかになる前振りと、そのクライマックスで「ハッ」となった次の瞬間の映像と、その雰囲気で示しています。

だから観客は観ている間ずっと想像力を働かせている状態になります。

それが、この映画が画面から目が離せない要因のひとつでしょう。


その明文化しない演出は、もう一つの側面もあると思っていて、それが冒頭で「その嫌な感じや怖さ、衝撃を全て観客である我々に還元してくる巧みな造りになっている映画」と言った理由です。

観客は前振りの部分でまさか?!と想像力を巡らせイヤミスならではの虫酸が走る真実に思い至ります。

そしてその思い至った厭な考えを映像が裏付ける。

だから観客は自分の想像力が恨めしくなるというか、そんな嫌なことに思い至る自分が嫌になり怖くなる。

そんな、怖さを自分に還元してくる映画だなと思いました。



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■キャストの怖さ
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この作品はね、もう誰がどうとかそういうレベルではない気がしています。


主演の妻夫木聡と満島ひかりは言わずもがなで、他の証言者たち────臼田あさ美、小出恵介、市川由衣、中村倫也、松本若菜、眞島秀和、濱田マリ、平田満────の芸達者ぶりも舌を巻くばかりです。

満島ひかりは、現在放映中のドラマ『カルテット』でもその魅力を爆発させてますが、あの迫力はなんなんでしょう。

壊れた感じを出すのは天性のものでしょう。


敢えてどこかを特筆せよと言われたら、ひとつ。

妻夫木聡演じる主人公は取材のために昼夜問わず色んなところに行き色んな人と関わりますが、昼のシーンなのに彼の周りだけ薄暗いというか、「ずっと寝られずに深夜起きてる、でも何もすることがない」というような、まるで幽霊みたいな雰囲気を醸し出しています。

あの陰鬱な雰囲気が出せるって、あの人普段どういう事考えて生きてるんだろうかと思ってしまいます。

『WATER BOYS』の主人公・鈴木がこんな事に(泣)────なんて思う隙を与えてくれる程この作品は甘くありません。


あとこれは特に個人的な感想ですが、臼田あさ美って決して好きという訳ではないけれど、な~んか気になっちゃう存在です。

決して滑舌は良いとは言い難いけれど、唯一無二のものを持ってると個人的には思っています。

ある作品で出演者を一覧で見た時に、彼女の名前があったら、他の出演者を置いて先に「お、臼田あさ美出てるんだ」という風に必ず思う、そういう感じです。


まぁ、とにかく。
総じて言える事は、このキャストみんな凄過ぎて怖い(笑)


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■あとがき
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緊張感。

イヤミス。

衝撃。

働かせなければいけない想像力。

静。

静かで迫力ある映画。

定位置でじっとカメラ側───こちら側を見つめ、観客に対し演者が話しかけているように錯覚させる演出。

冒頭でも書きましたが、なんだかこの映画を観に行ったというより我々観客がこの映画に観られていたんじゃないか────そんな観了感を抱きました。

ちなみに本作の製作・配給はこの2社が中心。

ワーナーブラザーズ×オフィス北野

オフィス北野の湿度とワーナーブラザーズの映画力…この組み合わせは要注意の証です(笑)


先週から公開になったばかりですので、是非劇場へ。

あの真っ暗な空間で、この映画に見つめられに行ってみては────?
YosukeIdo

YosukeIdo