ベビーパウダー山崎

セールスマンのベビーパウダー山崎のレビュー・感想・評価

セールスマン(2016年製作の映画)
2.5
人間とは、ある時は善人の面を、またある時は悪人の顔を見せる多面体のような存在で、視点や立場によってその印象は大きく揺れ動く…みたいなことを常に嬉々と描いている作家、アスガー・ファルハディ。
「死」をフックにして物語を引っ張る姿勢も、国が抱える閉塞感や保守的な思考も、「物語」に利用しているだけのように見えてしまう。キアロスタミやマフマルバフは、なにもかも絶望(無力)だとしても、その先を懸命に映そうとはしていたし、それが誠実な表現ってやつではないのか。
女性への暴力は軽視する一方で、男性の尊厳は過度に神聖視していく。終盤の、あの状況になっても女性が自らの痛み苦しみから復讐、怒りの感情へとは向かず「許し」を選択してしまうのは、それがイランという国で生きる一般的な女性の現実を描いているからなのか、もしくはアスガー・ファルハディが持つ偏った女性観なのかはいまいち分からない。俺は他の作品も見て、なんとなく後者だと思っていますが…。
『セールスマンの死』と男性の境遇を重ね合わせて饒舌さを発揮するより先にさ、妻があいつをぶっ殺すべきだろ!ヤれよ、リアルっぽいとかどうでもよくて、そこで前を向かせる(行動に移す)のが「映画」(フィクション)の素晴らしさだろ。