Omizu

護送車の中で/クラッシュのOmizuのレビュー・感想・評価

護送車の中で/クラッシュ(2016年製作の映画)
3.8
【第69回カンヌ映画祭 ある視点部門オープニング作品】
『ムーンナイト』の監督にも抜擢されたエジプトのモハメド・ディアブ監督作品。

2013年、2年前のエジプト革命により就任したモルシ大統領が軍部のクーデターにより解任され、ムスリム同胞団と軍支持者たちが激しくぶつかり合う中で起きるワンシチュエーションドラマ。

全編護送車の中から出ないワンシチュエーションで、アメリカから来たAP通信の記者、ムスリム同胞団、軍部支持者らがごった返す。

様々な主義主張を持った彼らが時には激しくぶつかり合い、時には慰め合う様を緊張感ある演出、カメラで捉えた秀作と言えるだろう。

この尺感もちょうどよく、政治的対立のみならず、「女性に触られてはいけない」など女性蔑視の風土やアメリカへの反感と憧れなど様々な感情が交錯する。

エモーションに流れそうになるとトラブルが起こり激しい展開が起こるなど、慎重にクリシェを避ける描写が非常に巧み。

護送車内の臭いや暑苦しさ、圧迫感までも感じることができる作品で、エジプトという国が抱える問題を端的に示し、ドラマとしても成立させる上手い構成。

日本では宗教対立というのはそこまでない(カルトに対してはあるけどそこまで激しくはない)が、エジプトという国の宗教対立の激しさがうかがい知れる。
Omizu

Omizu