小松屋たから

喜望峰の風に乗せての小松屋たからのレビュー・感想・評価

喜望峰の風に乗せて(2018年製作の映画)
3.6
原題が「THE MERCY」(慈悲)。自分は不勉強だったが、英国本国やヨーロッパでは、かなり有名な実話らしいので、基本的には、事件から約50年、「そろそろ(主役の)ドナルドの行動の再評価を行い、赦しを与えようじゃないか、彼に神の慈悲を」という、ある程度予備知識があり、キリスト教的価値観を持つ人々向けの映画だと思う。

コリン・ファースが主演だから日本の会社も買い付けたのだろうが、そもそもドナルドのことをよく知らず、宗教観も異なる大多数の日本人は、彼の行動も結論も、色々唐突で、違和感しか持たないかも(自分はそうでした)。この規模で公開する映画ではなかったような。

他の多くの方々も書かれている通り、邦題は内容とまったく異なる。むしろ喜望峰には近づきたくない男の話だし。
暗いタイトルにしてお客さんが減るのを避けようとした配給・劇場の思いもわかるが、わざわざ「喜望」というワードをタイトルに入れ「海洋冒険ドラマ」と謳ってしまっては、スタート時点での集客はできても、期待と内容の落差があまりに大きすぎて、結果、作品そのものへの純粋な評価も実際以上に落としてしまい、口コミでの広がりを阻害することにしかならないのでは?

原題のままが不安だったのなら、例えば「ラスト・レース」とか、どちらでもとれるようなシンプルなタイトルにすれば良かったのに。すみません、余計なお世話です。

でも、ドナルドの苦悩には普遍性がある。普段の仕事でも、途中でこれはダメだな、とみんなが気づいているのに誰も引き返す勇気がないまま…というのはよくあることだ(この映画の配給宣伝も?)。

そもそもすべてがドナルド自身の行動が招いた事態なので、奥さんのメディア批判にはあまり説得力を感じなかったけれど、家族の絆は美しかったし、切なかった。撮影も含め映画として決して悪くはない(と思う)。

あ、コリン・ファースはやっぱり好きです。