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J.S.バッハ G線上の幻想のくりふのレビュー・感想・評価

J.S.バッハ G線上の幻想(1965年製作の映画)
3.0
【囚われの夢想】

シュヴァちゃんの初期短編。公式にはこれが映画二作目か。まだ試行錯誤の段階かな?また、まだシュルレアリストを公言する以前だと思います。

脚本がなく、即興で撮ったらしいが、このように編集されると発作的に、強制収容所に残る怨念的な記録に思えます。もう少し幅を広げて“何かに囚われて逃れられない心理”とも思えますが。それらが夢に現れたような感覚…でしょうか。

男が古い建物に入り、ある行為でバッハ「幻想曲とフーガ ト短調 BWV542」が鳴り響く。

壁、鍵、扉、窓…が示されるが、出られない。壁には穴も広がり、扉も開くが、やはり外には出られない…。

強制収容所の怨念、またはそれに類したものを感じるのは、男が自分の口を塞いだ上で、楽器と音楽の力で“口寄せ”をやっているように思えるから。

本作の時点で既に、食べることにネガティブイメージの混じるのがシュヴァちゃんらしい。

作品歴からはまだ習作レベルと思うけど、シュヴァは既にシュヴァだった、とわかります。

壁の穴は、実際に掘りながらコマ撮りしたのかなあ?

邦題の“G線上の幻想”はよくわからない。原題の“G-moll”はト短調のことでは?それに「G線上のアリア」は、バッハの原曲をG線のみで演奏できるよう、別人が編曲したものではと。

仮に、邦題にこじつければ、通常の映画では主役にならないモノだけを並べ、映画を作ってしまったコトがそれに当たるかと。シュルレアリストなら通常の発想だとは思いますが。

<2023.12.21記>
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