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あゝ、荒野 前篇のEDDIEのレビュー・感想・評価

あゝ、荒野 前篇(2017年製作の映画)
4.5
“生”への渇望。都会で貧困に喘ぎながらも確かな“光”が覚醒を待つ。新次と建二、相反する2人がボクシングという生きる意味を見つけ互いの希望を見出していく活力に溢れた傑作前篇。

これはとてつもなくエナジー溢れる作品でしたね。後篇まで一気見し、合計304分。
とにかく疲れましたが、不思議と長さを感じなかった前篇。
まず未鑑賞の方に断っておくと、かなりの頻度で濡れ場が出てきます。とても激しいセックス描写に、きっとボクシング映画だと家族なんかで観ていたもんなら気まずい空気が流れること必至なのでお気をつけ下さい。

さて、前篇のストーリーとしては、大切なものを失い生きる希望を失った自暴自棄な青年・沢村新次(菅田将暉)と、父親の虐待に遭いながら理髪店で働く吃音に悩む青年・二木建二(ヤン・イクチュン)が、片目の謎めいた男・堀口(ユースケサンタマリア)と出会い、ボクシングで生きる喜びを見出していく内容。
所謂前述したセックスシーンも新次の飽くなき“生”への渇望と捉えるとあれだけのくどさもある意味納得できます(とはいえ7回は凄い、菅田くんやりすぎ笑)。

私はとにかく新次という生き物に対して関心を持たざるを得ませんでした。とにかく「相手をひたすら憎んだ方が勝つ」という考えをモットーにボクシングに取り組み、目や仕草でこっちまでひしひしと感じるほどの悍しい恨みの感情を見せつけられ、俳優・菅田将暉の演技力に圧倒されます。もともとヒョロヒョロした体型の菅田くんがボクサー仕様の体型にビルドアップしているのもお見事でした。
そして、彼が生きる希望を失い、かつ生きる意味としていた恨みの相手・山本裕二(山田裕貴)の存在が大きい。
朝の連続テレビ小説「なつぞら」で雪次郎を演じた彼の面影を残しながらも、正反対のクズ野郎となり果てていたことに俳優としての彼の力を感じた次第ですが、新次はボクサーとして大成した裕二を倒すことを目標にボクシングに邁進していくんですね。

この作品の魅力は大きく2つあります。
新次と建二の友情、そして新次と裕二のライバル関係です。後編になるとこの構図がまた大きく変わっていくのですが、まずは新次と建二が友情を育みながら、新次が打倒・裕二に向けて努力を重ねていく姿がとてもかっこいいんです。

ところで本作のサブパートとして自殺防止サークルの活動があります。これが中々に衝撃的な結末を迎えるのですが、この自殺志願者の中に作品における重要人物がいるんですよね。
“生”に対して希望を見出していく主人公2人。一方で“死”を望む人々が対比的に描かれていきます。

男同士の友情、ライバル関係という熱い物語ながら、生と死への向き合い方という社会派な内容にも仕上がっているとても骨太な作品。
これはとてつもない邦画でしたよ。
って言いながらまだ「後篇に続く」ですけどね。

それにしても本作の舞台が東京オリンピックが終わった2021年という設定。まぁ新型コロナの猛威は予想できなかったでしょうが、さてオリンピックはどうなることやら。

※2020年自宅鑑賞110本目
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