やわらか

バンコクナイツのやわらかのレビュー・感想・評価

バンコクナイツ(2016年製作の映画)
4.3
3月に一度観てとても強い印象を受けたけど、寝不足で途中何度か飛んでしまったので、あらためて観直してのレビュー。バンコクの夜の世界に生きる日本の男とタイの娼婦たちの物語。

僕にとってこの作品で最も印象深いのは、アジアから日本に帰らなくなった人たちの姿。以前僕もアジアの複数の国に一定期間滞在ししていて、こんな人たちが本当に身近にたくさんいた。

例えば、強面で日本での人間関係を引き継いでグループを作って生きていく人。ローカルに馴染み過ぎて日本人であることにある種の葛藤を感じながら生きる人。訪れた国に自分の理想を無理矢理見出して、日本に置いてきた自分の現実を忘れる人など。

そんな彼らをリアリティを持って描いているのはこの映画の凄さなんだけど、同時に、アジアでの長く暮らす日本人は、あえて探すまでもなくこんな姿に落ち着いて行くようにも思えるかな。哀しいくらいに。

映画に描かれる3つの世界、バンコクの夜の喧騒とノーンカーイの広々とした地平、それにラオスの爆撃痕が地面に呑まれて歴史になって行く景色。いずれもがこの地域のひとつの顔であり、ストーリーが進むにつれ、映画の中の日本人たちもその中に溶け込んでいく。

そう言えば、1990年代前半に一色伸幸原作で山本直樹が描いた「僕らはみんな生きている」(マンガ版。映画はだいぶ違う)は、この作品とよく似た視点だったな。あの頃の日本人と、今の日本人の比較としても面白い。

3時間の上映が終わって最後、スタッフロールとともにメイキングシーンを流すんだけど、監督が地元の子供としゃべっていたり、アマチュアのタイの女の子が必死に演じようとしてる姿をみると、なんだか自分も撮影に参加したような錯覚に襲われて不思議な気持ちになったな。

足かけ4年以上に渡ってこの作品を撮り切った、富田監督はじめ空族スタッフの執念に心からの拍手を。山梨からアジアに広がった世界が、次回作でどこに向かうのか本当に楽しみ。
やわらか

やわらか