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兵士A 七尾旅人の8bitのレビュー・感想・評価

兵士A 七尾旅人(2016年製作の映画)
5.0
今日はお休みだったので、時間と心に余裕があるときに観ようと思っていたこれを、満を持して鑑賞。
175分という長尺、そして題材が題材だけに休憩を入れつつ一日かけて観るつもりでいたけど、どんどん引き込まれてノンストップで観終わってしまった。

近い将来、数十年ぶりに一人目の戦死者となる自衛官〝兵士A〟を七尾旅人が演じる、オペラのようなコンセプチュアルなライヴ。
ギターの弾き語りにはじまり、ポエトリーリーディング、サンプラーを使ったノイズミュージック、エレクトロニカ、ジャズ、
ゲストプレイヤー梅津和時とのインプロヴィゼーションなどなど、あらゆる音楽と歌によって過去・現在・未来を縦横無尽に行き来しながら綴られるのは、100年に及ぶ人間たちの物語。

〝兵士A〟とは殺戮者であり、戦死者でもある。
〝兵士A〟とは誰かの友達であり、誰かの弟であり、誰かの恋人であり、誰かの子である。
〝兵士A〟とは自分自身のことである。
誰が、いつ、どこで〝兵士A〟になるかわからない。いま、我々のいる現実はそういうことだ。

時に穏やかに、時に鬼気迫る表情で音を奏でる七尾旅人の姿は、まさに先の見えない〝いま〟という時代をもがく我々人間の生身の姿を見せられたよう。
一度きりのライヴの上、準備期間も満足にとれなかったもよう。さらに体調も良くないらしく歌の途中で咳き込んだり、機材トラブルに苛立つ姿も隠さない。
最後の最後にわずかな希望が歌われるが、この暗澹たる現実を前に希望など歌ってもよいのだろうかという葛藤さえ感じさせる。
そんな全身全霊のステージを固唾をのんで見守るオーディエンス。会場の張り詰めた緊張感さえも映像から伝わってくる。

「我々は〝戦前〟を生きている」という言葉に愕然としてしまった。
〝兵士A〟になる日はもうそこまで迫っている。
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