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The Devil's Candy(原題)のEikeのレビュー・感想・評価

The Devil's Candy(原題)(2015年製作の映画)
3.8
ホラー映画に限った話ではありませんが、娯楽映画のネタなど、すでに使い尽くされているといっても過言ではないでしょう。
そうなってくると、どうすれば新鮮な印象の物語に仕上げられるのか。
そこが作り手側の腕の見せ所ということでしょうか。

本作の監督・脚本のSean Byrne氏が本作でモチーフに用いているのが「ヘビーメタルロック」と「絵」。
ヘビーメタルと言う音楽ジャンルはアナーキズムや死や破壊に彩られた破滅的な詩と爆音の激しいイメージによって本来ならホラー映画と相性は悪くない筈(そのものずばり、Black Sabbathなんてバンドもある位ですから)です。
しかしそうした作品がそれほど多くないのは安直に結びつけるとパロディめいた印象が生まれてしまうからでしょうか?
しかし本作の場合、そのイメージを生かしつつも意外にもシリアスな展開に巧く持ち込むことに成功していると感じました。

売れない画家のジェシー・ヘルマンは心機一転で創作に励むためにテキサスの片田舎に引っ越します。
妻のアストリッドと10代前半の一人娘ゾーイにとっても不安はあるのですがどうにか新生活が始まります。
そんなある夜、レイ・スマイルという男が訪ねてきます。
異様な風体とつかみどころのない言動からこの男が精神的に不安定であることは明らかで、ジェシーは彼を追い払うのですが、実はこの男が以前この家に住んでいたが明らかとなり、ジェシーはこの家に不穏な気配を嗅ぎ取ります。
そしてそれ以降、彼の描く絵の雰囲気はまるで違ったものになっていくのですが…。

ヘビメタ音楽に染まったパンクな画家が主人公ということで印象としてはアグレッシブな作品になりそうなものですがそう安直な造りになっていない点に作り手の確かな力量を感じます。
全身にタトゥーも背負っているジェシーがそのタフな外見とは裏腹に実は繊細で、家族への負い目と作品制作への重圧に苛まれている等、ホラー系の映画でありながら主人公のキャラをきっちり立てている点は評価に値するでしょう。
また彼と娘のゾーイの関係が通り一遍な描き方で終わっていないおかげもあってラストまで緊張感が途切れる事無く見ることが出来ました。

ホラー作品として本作の巧いところはネタがシンプルに見えて、実はそれほど単純ではない事。
この訳アリの一軒家(いわゆる事故物件であることは了解済み)に越してきた主人公が次第に不可解な気配に感化されていく辺りはお馴染みの「お屋敷ホラー」の気配が濃厚です。
ところが、レイという異様な人物の行動が並行して描かれていくにつれ次第にシリアルキラーによる「サイコホラー」の匂いも強くなってきます。
彼の口からでる「悪魔のためのキャンディー=おやつ:(原題)」には中々禍々しいイメージが浮かんで猟奇性も巧く生かされております。

ところが、その上でラストの展開を見るとまた違ったジャンルのホラーとしてのイメージが自然に浮かんでくる造りになっており、良い意味でミスディレクションの手腕も伺えます。
その点もあって実は思いの他、新鮮な印象を受ける作品になっておりました。

本作の成功の大きな要因はもちろんこの脚本の質にあるのだが、同じくらい大きいのは演技陣の奮闘。
特に主人公ジェシーを演じたEthan Embryとロイ役のPruitt Taylor Vinceは正に熱演。
巨漢のTaylor Vince氏は貴重なバイプレーヤーでありますが邪悪な声に追い込まれて凶行に及ぶ狂気にも中々に説得力があって、この熱演は正に本作の要と言って良いかと。

実は本作は80分とかなりコンパクトな作品になっております。
流血シーンというほど過激なシーンも出てはきません。
しかしそれでいてジャンル作品として非常にきっちりとした造りの印象を受けるのはやはり演出と演技者のパフォーマンスが巧く噛み合っているからだという気がいたします。

インディーズ系のホラー作品にとしては十分に及第点の作品だと思います。
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