ろく

ANTIPORNO アンチポルノのろくのレビュー・感想・評価

ANTIPORNO アンチポルノ(2016年製作の映画)
2.6
ロマンポルノリブート④

色彩の作り方はペドロ・アルモドバルだろうか。極彩色が楽しく、本来僕はこの映画を「好きになる」はずだ。

でもねえ、どうにも腑に落ちない。とくに言わせているセリフがスカスカと抜ける感じなのよ。こっからは思いっきり暴論かますけど……

たぶん園子温は「そんなことを考えてない」の。出てくるセリフはどれも「今の女性の本音」なんだけど、そこが「此れならなんとなくよくない」って感じなだけで、見ていてもいやこれポーズでしょって感じになるんだ。少年ジャンプあたりの薄い人生レクチャーをそのまま受け売りに喋っている感じでどうにも座りが悪い。だから見ている僕も信じてない。羊頭狗肉を地でいっている感じなんだ。

その証座として園子温の苦しみ/もがきが見えないってのが一番にあるの。だってそこには血反吐を吐いて「こうじゃないといけないんだ」がないんだもん。そんな見た目だけの映画を作られてもこっちはどうするのって気持ちになる。

この映画ではなんとなく想定した「本当の自分」を園子温が追いかけている。確かにユングはペルソナ(仮面)の下に真の自分があると言っていたけどそれ本当なの?もしかしたら(僕はそう思っているけど)真の自分なんかなくてその環境/社会の中でパーソナリティは作られ変格されるだけなんじゃないかと思っている。なのに園子温は恰も「本当の自分」があるように撮り、剰え最後はその「自分」(それって適当に設定しただけなのにね)に酔った。そこがどうにも僕には納得できない。

定型の感情で定型の演技をする映画にはうんざりなんだけど、その一方で「これは定型ではないんだ」と恥ずかしくもなく声をあげ、観客の賞賛を得ようとしている映画はもっとうんざりだ。一言でいえば「しゃらくさい」。そう、この映画はなんともしゃらくさい映画なんだよ。

思いっきり着飾った画面の裏はスカスカだ。せっかくヴィトンのコートを着ているのに、下着はしまむらのブリーフだ(しまむらには謝っておく)。外見だけで中は寒々している。ポルノが持つ苦悩/含羞/恥辱/絶望は何もない。ましてや希望も解脱もない。すまない、僕はこの映画を認めるわけにはいかない。
ろく

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