140字プロレス鶴見辰吾ジラ

アシュラの140字プロレス鶴見辰吾ジラのレビュー・感想・評価

アシュラ(2016年製作の映画)
4.3
”純黒の悪夢”

幼き日に図工の時間にて絵の具をパレットに乗せる。赤、緑、青と混ぜていくも、そこに一旦黒が混ざれば、何度別の色で拭っても拭っても、その黒が延々と濁り行く。一度踏み入れた黒の争えなさを幼き日に僕らは知らされた筈なのに、黒を覆うために黒をまた塗りたくる。そんな映画。

韓国ノワールの傑作と言っても過言ではない、延々とした負の感情と下衆の極みから抜け出せない憤怒や嫉妬の連鎖に溺れる世界観。架空の都市であるがゆえのファンタジーなまでの悪悪とした街の全景から、汚らしい路地裏にて悪夢と悪夢の板挟み、誘惑に雨晒しにされる者たちの顛末に居た堪れない不快感と苦痛に満ちた現実の破壊願望が快楽として写し出された根源的な恐怖と期待感が垣間見える。

韓国映画は何故面白いか?
それは徹底的な袋小路感であり、振るい落とされそうな韓国という国自体のノワール性に恐怖を抱きながら破壊衝動に駆られる、社会においての板挟みからの脱却自体を願う者が作り、鑑賞し、心を鷲掴みにされるからなのかもしれない。

暴力シーンには派手な効果音をつけず、とにかく不快な血の描写、痛みのイメージがつきまとい、そしてカーチェイスの怒涛のごときアドレナリン演出。登場人物の自分に降りかかって欲しくない確かな死の描写が何よりどぎつく新しい。