ベルサイユ製麺

この街に心揺れてのベルサイユ製麺のレビュー・感想・評価

この街に心揺れて(2015年製作の映画)
3.5
FILMARKS的には『この街に心揺れて』がタイトルみたいなんですが、パッケージには『台北発メトロシリーズ この街に心揺れて』と記されております。ハテナと思い、ちょっと調べてみたところ、葉天倫という現地の有名監督が→以下コピペ〔プロデュースした、台北のMRTの駅を舞台にその土地の歴史や文化を盛り込み、ご自身と5人の新鋭監督による7つの愛の物語を綴った作品群〕の日本リリース時のシリーズ名が”台北発メトロシリーズ”なのだそうです。どうですか?興味湧きましたか?

ということで、台北の迪化街と言う街が舞台。
冒頭、地下鉄のシーン。カメラを構えた女性。アラフォ?もうちょっと?アースカラーのエアリーで上品な身なりのチャーミングなひと。
場面変わって地下鉄車内。肩怒らせて颯爽と闊歩する青年。グラサンにヘッドホン、ルーズシルエットの派手なアウターの、如何にも現代型ヤンキー的な風貌。ニヤニヤしながら…
1、吊り輪に捕まる女性のバッグを軽く引っ張る
→よろめいた女性と側にいた男性の目が合う💘
2、男子学生の脚を軽く蹴る
→倒れまいと壁に両手を突くと、読書をしていた女学生に壁ドンする格好に。目が合い、ハニカム女学生💘…。
3、ボックスシートに先程のカメラを持つ女性。やおら彼女のイヤホンを耳から引き抜き落す。逆サイドに座る同年代の身なりの整った男性のスマホをはたき落とす。
→それを拾おうとして、一瞬目が合う2人。…しかし直ぐに元の姿勢に💔。
「ちぇー」って表情のグラサン男。コイツは一体?

女性の名前はチュー・ジンハイ。この街を飛び出して東京でフォトグラファーをしていて、帰省してきたところ。かつて恋仲の男性カオと結婚直前までいったが、当日逃げ出すという失態を演じ、以降独り身。案じた母親にお見合いに引き回される。母はすごく縁起を担ぐ人で占い狂。実家はそこそこ人気の旅館です。

スマホ叩かれ男は、シー・ジョンシオ。アメリカで数学者をしている超ロジカルシンキング男。ややややマザコンの気がある。坊ちゃん刈りぽいヘアスタイルとか茶系のジャケットとか、確かにそんな雰囲気に見える…。彼も帰省中で、兎に角お見合いをしまくっている。どうせアメリカ帰るのに。若い頃に父と喧嘩をしたままアメリカに飛び出していて、それ以来父と上手くコミュニケーションがとれていない。

そして、車内のボンクラそうなグラサン男は“縁の神”キュー・ピッド(‼︎)です。見習いなんだって…。彼には、然るべき“縁”の姿が見えるので、そのアシストをしているようなのです。

チューさんのお見合いの相手はシーさんでした。でも、数学者であるシーさんはなんか神経質そうだし、そもそもお見合いなんて気乗してないし…。
チューさんが帰宅すると、シーさんにばったり。なんでも、帰省中は実家ではなくこの旅館に泊まっているのだそう。
チューさんがモデル撮影に行っても、偶然シーさん登場。お寺に行っても又もやバッタリ。
いく先々で「ここでもバイトしてるんです」なんて、ちょろちょろと暗躍するキュー・ピッド、がニヤニヤ…。
流石にこれだけしょっちゅう会い続けると、そもそもの境遇もちょっと似てるし、リズムが合うし、何となく一緒に行動するようになります。でも、大人なのでね、気の合う友達…ぐらいのもんですよ、ええ。ましてやチューさんの占い狂いの母が「チュー家とシー家は合わない」とか言うし、そもそも臆病になってるもの。
そうこうグズグズしてるうちに、チューさんの元にかつて恋人カオさんが現れます。カオさんはチューさんとヨリを戻したいみたい。どうすんのキュー・ピッド??

なんたる!なんたる超黄昏大流星群なのだ!!!!🌠
大人の恋愛ドラマって、普通は割り切ったセクシャルな関係の裏にある心の探り合いを描いたり、アンモラルな関係の行く末を下衆く見せたりしがちだと思うのだけど、この作品、超プラトニック!!プラトン本人がイライラしたと聞きましたよ!
なんつったって
始めて手が触れるまで56分!
想いを伝えるまで75分!!
…もう、凄い良いよ、あなたたち。そう、歳を重ねる程分かる。「すき」に含まれる余分な情報の重さ。喪失感で心がどれほどの血を失うか。…そして、1人でも生きれてしまうこと。
…それを分かってて尚、果敢に挑もうと言うのなら、慎重に。…そうだ、キュー・ピッドの言葉を思い出して。
「運命を左右する力は自分にある」らしいよ!


ってね。うわぁもう、この2人に想定外に思い入れてしまったよー!だって本当に良さそうな2人なんだもの…。

この映画は基本的に、ホントに単なる恋愛映画なので考えさせられたり、見識が深まったりはしません。超ライトなファンタジーの要素もありますが、かと言って荒唐無稽って事も無いですね。大人の方でもまあ観られます。雰囲気は青山真治監督の『東京公園』に近い緩さです。
シネフィル的に見るべきところは多分無いようと思います。キャストもスタッフも知らない人ばっかりだし、凄く娯楽度が高いって訳でも無い。それこそ日本の地方創生映画と別段変わらないと思います。だから別に誰も観なくても問題無いです。自分は2回観ちゃったけど。もう独り占めしたいくらいにちょうどよかった…。

主人公チューさんがフォトグラファーで、地元の観光PR誌の写真をいっぱい撮るんです。他のご当地系作品でも見かけた設定ですけど、自然にその土地の印象深い風景を作品に織り込む事が出来ていて良い感じ。台北の歴史を感じられる街並みも、可愛く飾り付けられた路地裏の商店も、謎めいた郷愁を誘います。年季の入った文具店(万年筆屋?)、淡い色が溢れる布地屋、生活と密着したギャラリー、金魚の飴細工…。そして掻っ込むルーロー飯の美味しそうなことよ!…ホントに2人はこの街から飛び出したかったの⁈って不思議に感じるほど魅力的に感じられました。(それがプロの仕事と言うものか…)
あと、チューさんが東京で暮らしてる設定なので、たまに急に日本語の台詞が出てきます。多分耳コピだろうし、流石に“親日国”ってゆうのを額面通りとるほどのお花畑では無いですが、やっぱりちょっと嬉しいものです。
シーさんが数学者っていうか設定は、男性の理屈っぽさを上手く誇張出来てると思います。満腹になった事を「15㎝も食べた」とか言うのですよね。でも、相手を理屈で跳ね除けたり封じ込めたりしたい訳ではなくて、自分で理解できるように置き換えようと必死なのだと思います。なかなか可愛い。終盤で“オイラーの公式”という数式(ドラム+裕次郎×怒り=嵐)のメモを彼女に渡すのですが、この解釈がロマンチックでまた良い。ここに限らず、全編大人にも説得力を持つさりげないパンチラインがいっぱい潜んでる感じです。メモがおっつかない☺︎
劇伴は基本的に大陸系の旋律なんですが、時に久石讓調になったりもして、まあズルイのですが悪くない。
…もう、全体的に悪くない。☆平均3.0以下かもしれないけど、自分はなんだか変に気に入ってしまったし、映画を見てこんなに現地に行きたくなったのは初めてかも知れない。映画自体も定期的に観たい気がするけど、買うのは嫌かな…。

1回目観た後はどう書いたものか悩んでいたのだけど、2回目観たらやたらと書きたい事が溢れてしまって、ダラダラと長くなってしまいました。このプロセス自体が自分の恋愛のフィーリングに似てるのかもしれません。きっとこの映画と自分は相思相愛なのに違いない。他の方がこれを観てピンとこなかったとしたら、そのせいです。これ自分のなんで。

大問題が一つ!シリーズ残り6作、近所のTSUTAYAに有る気配が皆無。皆無外伝ですよ。うわー、買うの?やだー。¥4104×7…って格安なら台北行けそうじゃん!
…ということで、どなたかお持ちでしたら貸していただけると助かります。あと、良いご縁も募集しております。キュー・ピッド、はよ来い!