みなりんすきー

ブルー・ジェイのみなりんすきーのレビュー・感想・評価

ブルー・ジェイ(2016年製作の映画)
3.8
『君たちだったか 有名なカップルだ まだ一緒にいるんだね』

『多分 後ろめたいの 私の人生はそこそこ順調なはずだから 幸せなはずなのに でも何だか…悲しいのよ でも なぜ悲しいと思うのか分からない』

『何だか少し…驚いたの さっきのテープを聞いてたら 私すごく楽しそうだった』


■ あらすじ ■
ジム(マーク・デュプラス)は、亡くなった母親の家をリフォームして売却する為にカリフォルニア州にある小さな町に帰省していた。スーパーで買い物をしていると、高校時代のガールフレンド・アマンダ(サラ・ポールソン)と再会した。2人は喫茶店ブルージェイでお茶をし、別れる筈だったが20年振りの会話に花が咲きその後も思い出の場所を訪れながら互いの近況などを語り合う。やがてアマンダが久し振りにジムの家を見たいと言い、ジムの家を訪れた彼女は懐かしい気分で一杯になり…


■ 感想 ■
『ブルージェイ』
(『Blue Jay』)

登場人物僅か3名のみ(内1名は1シーンでしか出てこない為、ほぼ2名のみと言っていいほど)のドラマ映画で、全編白黒での撮影をとっている。

これ、凄く良かった・・・。終盤では思わずポロッと涙がこぼれました。これはきつい…切なさで胸が締め付けられる。

高校時代付き合っていたらしいが、今はとっくに別れていてアマンダにはもう旦那さんも子供もいて。ジムは独身でちょっと荒んだ生活を送っていて。序盤でそのくらいの情報はすぐに出てきて、ふーんなるほどなーと。まぁアマンダにはもう家庭があるから復縁とかの話ではないんだろうな、くらいの予想はできて、とりあえず2人のやり取りを静かに見守るんだけど。
すぐにある疑問が浮かぶんですよね。
”こんなに良い雰囲気の2人なのに、なぜ別れてしまったんだろう?”

どう考えても、互いを嫌いになって喧嘩別れとか、そういうのは考えられない。2人の話が弾めば弾むほど、長い時間を過ごせば過ごすほど、今すぐにでも結婚できそうなくらい、相性はピッタリで楽しそうで。様々な描写からも深く愛し合っていたのがよく分かる。誰がどこからどう見ても、うまくいくはずのカップル。だからこそ、劇中はずっとこの疑問が残るんですよね。2人の間に一体があったの?ずっと疑問なのに、よくある「あの時は俺が悪かった」みたいな、別れた時の話は全く出てこないんですよね。なんだか、2人ともそこには敢えてなのか触れずに、ただ楽しそうな時間を過ごしている。この構成や描写が上手くて、視聴者をずっと2人のやりとりに引きつけっぱなしにするというか、気になって仕方がない。これから2人がどうなるのか、どんな話をしていくのか。核心に触れるのか。それをずっと抱きながらも、素敵な時間を凄く2人に、良いカップルだなぁ、とほのぼのできる。いつキスするのか、それともしないのか…ちょっとドキドキしたりも。

最後の最後で、あぁ…と思わず声が漏れる。落胆とも驚愕とも少し違くて、ただただ切ない。静かに涙が零れる感じ。そっか、そういうことだったんだと。

ジムもアマンダもずっと、本当は声をあげて泣きたかったんだろうね。だけど大人ってどんどん余計なプライドや言い訳ばかりが邪魔して、子供みたいに自分に正直になってあげることがなかなかできないから。悲しくても悲しい!って泣けないし、辛くても辛い!って叫べない。仕事を失ったこは世間的に恥ずかしいことだから、誰にも言えない。抗うつ剤を飲んでいることは恥ずかしいことだから、誰にも言えない。大声をあげて泣く子供を見て、羨ましいと思う。他人の評価や目を気にして、そんなのばっかりで、自分の声を大事にしてあげられない。すごい分かるなぁ、と思ってしまった。抑制に抑制を重ねて、どんどん凝り固まっていってしまって、泣かないというより泣けなくなってしまうんだろうね。
だから、最後の場面では悲しくて切ない気持ちも勿論あるんだけれど、ほんの少し、「よかった」と胸があたたまる気持ちもあった。やっと、やっと向き合えたんだと。止まっていた2人の時間は、向かう先は別々かもしれないけれど、やっと動き出せたのでしょう。

”たられば”には何の意味もない。生きていくうえで、考えずにはいられないけれど。大切な人に、大切なことは、その時に必ず伝えなきゃ。そうしなきゃいつか必ず後悔する。改めて強気そう思わされました。

切ないけれど心のあたたまる、素敵な映画でした。