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ブルーム・オブ・イエスタディのotomisanのレビュー・感想・評価

4.6
 敗戦後しばらくはナチズム傾倒を反省する機運は強くなかったらしい。ところがナチス批判が強まるにつれ、元ナチス関係者の子や孫たちが親や祖父母を告発する事が珍しく無くなってしまったという。またナチズムへの嫌悪が強まる一方で、告発者に対する逆批判もあるそうだ。
 主人公トトは、そうした告発者で、17歳でネオナチから抜け、優しかったという祖父のブルーメン大将麾下のSSの行状をまとめ上梓し高い評価を得、ナチズムから抜けられない兄まで告発し入獄に追い込む。実に生真面目で一貫した態度だ。その反面、家族からは絶縁、ネオナチも呆れる様な怒りっぽさ、破壊衝動、自制の効かなさ、性的不能などに悩まされ、公私ともに崖っぷちで少しも幸せでない。かと思えば、掃除人の国やカエル食いのような悪態はドイツ人がナチズム以前から持つ腹の底を垣間見るようだ。
 本国、独墺ではトトのような告発者は稀では無いだろうが、これほど精神的に参っている人物はどうなのだろう。当地での映画の評価がどんなものか気になった。ドイツ語に堪能でドイツでの批評を目にされた方が居たら投稿を期待したい。
 対してザジは、これまでよく生きてこれたと思うような人間(自殺せずとも誰かに殺されてしまいかねない不穏さがある。柔術が役に立ったなら幸いだ)しかし、トトとザジの間には波風(結構高い)の妙ないい塩梅があっておもしろい。どん底のドイツ、近づきあうウィーン、一体になるリガ。あのナチス台頭の時代がなかったら、同窓隣席のトトの祖父(SS大将)とザジの祖母(アウシュビッツで死亡)はどうなっていたろう。セックスの後の排卵の音に受胎を確信するとは可笑しいが妙に清々しく、二人の心情はよくわかる。こうゆうのが幸せなんだろうなあ。
 ドイツとユダヤは負けても抑圧されても必ず台頭する感じがある。この二人も憂鬱な歴史の旧大陸を追い出されたのだろうが、NYCでトト夫婦は元のさや。ザジもパートナーと娘を得る。一応、幸せなんだろう?ところが冒頭で、ザジを追うトトの独白にある、何かが足りないと言う。この正体が気になった。直接にはザジだろうが、なぜか二人の再接近が不幸の始まりのようで。不合理にも、恋愛する二人一緒の敗者になるような気がしてならない。そこが「昨日のブルーメン氏」の再現となるんだろうが、二人にはどんな新天地がありうるだろう。
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