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道士下山のtanziのレビュー・感想・評価

道士下山(2015年製作の映画)
4.1
毎日楽しみに観ていた金庸原作武侠ドラマ『天龍八部』(2021版)が最終回を迎えてしまい、激しいロスに襲われたので「と、とにかく武侠が見たい…」と久々に見直した。

激動の民国期、王宝強演じる道士が下山して様々な人と出会ういわば“魂“のロードムービー。

数いる演者に主役をはれる人がゴロゴロ登場する豪華さにまず驚く。さすが大監督。

幼少より実際少林寺で修行した主演の王宝強や武打星の重鎮ユン・ワーはもちろん、この年代のスター俳優達はちゃんと動けるなぁと胸ときめかせる。
動作設計は、これまた武侠映画への造詣深きベテラン谷軒昭。

原作は、自身も映画監督である小説家徐浩峰の短編。とにかく武侠の黄昏と江湖への惜別を描かせたら右に出るものはいない作家だけに世界観は安心印だけど、監督が違うので武侠らしい不思議キャラや演出など、よりエンタメに振り切ってます。

今作をただの功夫映画と思うと、かなり戸惑っちゃうんだなぁということはなんとなく多くのレビューを眺めていて感じました。

これは“武侠映画“だから。功夫映画にお約束があるように、武侠には武侠の作法がある。

自分もかつてそうだったので偉そうに言えた立場じゃないのだが、日本では黎明を告げたのがJチェンの功夫映画なので、武侠と功夫の分断は思いの外激しいんだなぁと。

それはさておき。
民国という激動の時代に失われた多くのものには江湖とともに武術の本質もあり、ある人物が銃によって殺された事に分かりやすく表現されていました。
その人物ですら、愛する男に最後に一目会いたいと執着を口にする。

執着と喪失。
この物語では『天龍八部』同様に、求めるものを最終的に手に入れた人間は誰もいない。
門前に捨てられ寺院で育った純粋無垢な若き道士ですら、必死に残りたかった寺から下山させられるところから始まる。

それでも人は生きるという営みを続けるしかない。
まさに諸行無常は武侠世界の一面でもあり、今作は見事にそれを示していたと思う。大変満足です。
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