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姿なき拳銃魔のotomisanのレビュー・感想・評価

姿なき拳銃魔(1964年製作の映画)
3.9
 あと半年でアジア初のオリンピックだしね、拳銃魔と聞いて射殺マニアなんかを思い浮かべてちゃ小さい小さい、今やオール・ジャパンで密輸拳銃を捌くのが当代日本の魔の実像なんだぜ。というわけだが、その元締めが貿易量日本一、ミナト神戸きっての悪所で何ともしょぼ気なヤクザ屋さんみたいだもんでたたらを踏みそうになる。
 しかし、「戦後」終結から10年、未だに昔を引き摺ったような闇屋風のおっちゃん等に密輸日本一の神戸の闇代表にしてヤクザ拳銃市場全国シェア8割の大悪党を担わせたのも、終戦から長年警察の追及を躱してきた彼ら闇屋の相貌が将にああしたもの、また、街ぐるみで「正義」を欺く体制だったからなのかもしれない。それとも拳銃密輸に関する限り、分野がまだ特殊過ぎて彼ら仙波組の寡占状態なだけ、市場も未成熟なら密輸ルートも未開拓なだけなのか?

 どちらも本当なのかもしれない。いずれにせよまだ芽のうちに摘んじまって、その元締めもぶっ潰そうぜというのだろ。そこへ、警視庁のはみ出し刑事(葉山)が被疑者自殺の大はみ出し、きっと特別公務員暴行陵虐のようなことなんだろうが、仕出かしてしまったのでほとぼり冷ましついでにそっちに送るから使ってみるかい?という次第か。

 (葉山)刑事の神戸で面が割れてないのを幸い、罠に嵌めて捕まえた横浜の暴力団幹部に成りすまして拳銃を買いましょうと元締めの懐に飛び込めば、在庫は払底中、入荷は遅れる、しかも運び屋は殺されブツは盗難に遭うわ成りすましはバレ掛けるわのサスペンス。
 ただ、これがどこかコミカルなのが元締め一家のヤクザ屋さん風なのと、強面with人情家と思った(葉山)刑事の口八丁のせいでもある。ガン捌きと鉄拳じゃなく機転でギリギリ急場をしのぐ辺り、なんだか今度こそこけそうになる。

 そんな調子のまま迎える第二戦は盗難拳銃横流しの取引現場、ここに横取り犯、引き受け先女親分、加えて横取りでコケにされた密輸業者、逆襲の元締め一家と雇われの殺し屋まで悪党大集合の大盤振る舞いとなるが、現場のキャバレーの賑わいの中、さらに敵味方正体不明な面々が入れ替わり立ち代わりして本題を翻弄してくれる。これがおもしろいよなそぞろ気なよなで褒めたかどうか。張り込み刑事団の繋ぎ役(鈴木瑞穂)刑事の「トイレ」連発はキャバレー嬢にも笑われる。

 こんなねっちょりを急転させるには密輸団の頭(秀二)が出しゃばり女親分(マリ)に電話越しでの斬り込みを掛けるしかない。横取りを強制破談させて埠頭の倉庫へ急行、ブツを押さえて横取り屋をバラして(葉山)刑事の現行犯逮捕宣言で神戸戦争一発、全員逮捕と来らぁ。
 それであの薄明、凱旋風景というかご苦労様ですというか、デカ長(浅野)の初孫祝電と(葉山)刑事のオレの神戸宣言が出る「特別機動捜査隊」な高速をパトカーで、というのが何とも言えなくしみる。90分以内に終わっていいじゃないか。

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 話は変わるが、この時期の神戸港界隈を取材した写真家に、と言ってもまだ写真学生も駆け出しだが、北井一夫がいる。
 ネタ探しに赴く波止場、促されてカメラを携え向かった先に沖仲仕を束ねる人物を訪ねると、そんなもんでブラブラしてないで働けというのだそうだ。荷役を半日ほど勤めると今度は、役に立たないから写真でも撮ってろと顔役氏は言う。半日当も寄越して呉れて、これが「写真屋」として見知ったという事、「潜入捜査」にしてはあけすけな来訪者「写真家」北井氏に対する偽りなしとの品定めであろう。
 この映画が神戸の一面なら、氏の伝える話も同じミナトの別面であろう。震災による失地を回復するのもままならない今の神戸からは想像もつくまい、日本一の古き貿易港、機械化前夜の港、万事人が頼りで、実績に裏打ちされた人の顔が唯一の認証手段だった。戦後の延長期も終わろうという時分である。
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