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散歩する侵略者のEDDIEのレビュー・感想・評価

散歩する侵略者(2017年製作の映画)
3.6
あなたの概念を奪います。
突如として地球侵略を目論み地球人になりすました宇宙人。
人類の未来は一組の夫婦に託された。
“愛の概念”はそう簡単には奪えない。


ヴェネチア国際映画祭銀獅子賞受賞の黒沢清監督作品『スパイの妻』が間もなく公開です。
『スパイの妻』鑑賞を間近に控え、黒沢清監督作品をいくつか観ておこうと本作をセレクト。
私の友人が本作の舞台を絶賛していたこともあり、『散歩する侵略者』のタイトルが頭にこびり付いていました。

いやー、それにしてもひと言で感想を言うのが難しい。
面白い!とも思ったし、よくわからない!とも思ったし、ただとにかく豪華俳優陣の演技には魅せられました。

個人的に印象的だったのは長谷川博己、恒松祐里、松田龍平の3人です。
長谷川博己はジャーナリストの桜井役ですが、とあるきっかけで宇宙人(に体を乗っ取られた)の天野と立花あきらと行動を共にします。高杉真宙演じる天野とのある意味バディものとしても見応えがあり、ちょっとしたBLっぽさも仄めかす感じがそういうのが好きな人にはたまらなそうです。笑
終盤(ちょっとチープでしらける)爆撃シーンがあるんですが、そこでの長谷川博己は圧巻でした。あれは特殊効果でしょうか、それとも長谷川博己自身の体を張った演技でしょうか。めっちゃ足が曲がってましたけど…。

そして、もう1人の宇宙人立花あきら役の恒松祐里。彼女は映画、ドラマともに女子高生で大人しめの役が多い印象ですが、本作では随一のアクション担当。アバンタイトルのシーンから魅せられましたし、アクロバチックな格闘シーンはとても見応えがありました。恒松祐里にはもっとアクションで見せる映画にも出てほしいものです。

3人目の宇宙人(に体を乗っ取られた)加瀬真治役を松田龍平。彼の飄々とした雰囲気が見事に役柄にマッチして、奇妙さこの上ない。
最初は勝手がわからないところから徐々に地球に順応していっている過程を自然に演じていたのが印象的でした。

この作品の面白いところは、宇宙人の地球侵略という主題に対して、決して爆発などの大規模アクションで見せるわけではない点。ここが黒沢清監督の腕の見せ所なんでしょうが、人間の“概念”を奪いながら地球人たちの日常に溶け込んでいくというもの。
さすがジャパニーズホラーの鬼才ということもあり、決して幽霊とかの恐怖を与える作風ではないにも関わらず、人間(というか宇宙人)の奥底の恐ろしさを映像で見せるのが巧みでした。

長澤まさみ演じる真治の妻・加瀬鳴海は、宇宙人に体を乗っ取られ人が変わったかのように優しくなった夫に絆され、一度忘れた“愛の概念”を取り戻していくわけですが、この2人の愛に満ちたやり取りと結末がとても素晴らしかったのです。

ですが、やはりわざわざ人間の概念を奪うというチマチマしたことをやって侵略していく理由がよくわかりませんでした。
宇宙の彼方から彼らの仲間たちが総攻撃を仕掛けてくるわけですが、なぜそれを最初からやらなかったのか。
また序盤こそあきらを筆頭に宇宙からの侵略者らしい強さと恐ろしさを見せながら、やられるときは呆気ないというか…。

ほか、満島真之介も印象的な演技を披露してましたし、今観るからこその東出昌大の役がめちゃくちゃマッチしていて笑いました。キャスティングした時点で東出昌大の例の不倫騒動を予期していたのではないかと思わせるぐらい、今思えば適役な牧師役でした。

役者の演技は素晴らしく、要素としても斬新なんですが、なんとも勿体ない印象の作品でした。嫌いではないだけに、ちょっと舞台版が気になってきました。

※2020年自宅鑑賞282本目
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