荒野の狼

8年越しの花嫁 奇跡の実話の荒野の狼のレビュー・感想・評価

8年越しの花嫁 奇跡の実話(2017年製作の映画)
5.0
免疫性神経疾患を大学医学部で教育・研究しているものです。本作品は抗NMDA受容体(抗体)脳炎により神経ならびに意識障害にいたった実話をもとにした2017年の映画であるが、日本で同時期に公開されたカナダ・アイルランド合作映画「彼女が目覚めるその日まで」も同じ疾患を扱った映画。免疫は通常、病原微生物や癌細胞を攻撃し排除に働くが、免疫異常が起こると自己の組織を攻撃することがあり、これを自己免疫とよぶ。神経難病の中にも自己免疫により起こる疾患があり、抗NMDA受容体脳炎は、神経におこる自己免疫病のひとつである。2007年に疾患概念が確立された新しい疾患であり、本作の実話が2007年に発症であるので、疾患概念の確立から極めて速く診断された例といえる。この疾患概念の確立以前は、その神経症状が他の精神疾患とされたり、極端な場合は「悪魔祓い」の対象にされたりした(映画「エクソシスト」のモデルの症状は本疾患)。本作の中では、残念ながら疾患名がでてこないが、まれな病気であるため、今後、疾患認識と偏見排除からも、神経・精神疾患にたずさわる医師のみならず、一般医師・医学生には特にすすめたい映画。本作でのリハビリへの取り組みの描写も素晴らしく、特定疾患を離れて、神経難病からの回復にかかわる患者本人、家族、医療従事者をよく描いた作品としても評価できる。映画としては、主演の佐藤健と土屋太鳳は等身大の主人公を好演、薬師丸ひろ子と杉本哲太の両親役、北村一輝の上司役はいずれも自然な演技で評価できる。
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