てづか

クルエラのてづかのレビュー・感想・評価

クルエラ(2021年製作の映画)
-
正直、最初は全然期待をしていなかった。なんなら、観るの辛そうだなくらいにはおもっていた。
というのも、女性主人公でヴィランでエマ・ストーンで…となると内容的には近年多く見られるようなポリコレに配慮したりなんとなく概念的な「強い女」みたいな話になるんだろうなと勝手におもっていたから。
まぁ、そういうところが全く無かったとは思えないんだけど。

それは置いといて。
そういう風に最初から期待値が低かったからかは分からないけど、私の中ではすごく好きな映画だと思った。クルエラの話だとは全然思わないし、これが101匹わんちゃんのクルエラに繋がるとも思えないけど、エステラというひとりの人間が過去と訣別して前に進んでいく話としてはすごく好きな決着の付け方だと感じた。

観たあとで人と話していて色々と粗は見つかったし、他人に甘えきってるとことかその優しさや献身を利用してるところとか他人が作ってくれたチャンスでしか何かをしていないというところは引っかかったりもする。けど。

1番なりたくなかった人間と自分の姿が重なっていく過程で壊れていく心がエマ・ストーンの微細な表情からよく分かるのとか、それを自覚してからの悪に対するある意味での信頼と、決着のつけ方が本当に良かったと思った。

加害者にならないためには被害者になるしかない。短絡的に殺しただけではなにも前に進めない。それは過去にも親にもとらわれるだけ。
クルエラのままで対峙するのではなく、エステラとして対峙したところも、あくまで自分自身の決着、というのを強調していたような気がして好きだった。

最近読んだ本の影響もバンバン受けていて、それこそもうそれに当て嵌めて観てしまったところはあると思うし、無理やりこじつけてしまっているのかもしれないけど、観た時はとにかくそう感じた。

過去に囚われ、悪性のナルシシズムに支配されて、自分の名前を轟かすことやたかがネックレスを取り戻すことに執着したりと一度は後退しかけてバロネスのようになってしまうところだったけど、そこを自覚したことによって、周囲の人間を大切にしたり過去の自分と訣別したりといった前に進む方を選べたということなのかなと。

そういうところに生きるってことを感じたりする。

音楽はほんとにこの年代のUKロックベスト盤みたいな感じで、そこはちょっとある種のあざとさとか狡さみたいなのは感じたけど、やっぱりHUSHとか流されると弱い。それはやられる。

あと、ファッションに関してはバロネスのファッションがことごとく良かった。百貨店に入ってきた時の衣装なんて最高。
クルエラの衣装はあまり私には刺さらなかったんだけども、エステラが作った蛾のしかけ付きのドレスは単純に美しすぎて泣いてしまった。
1人でエステラが黙々と仕上げたドレスをさも自分の手柄のように扱ってバロネスはエステラの努力を蔑ろにしたけど…。権力を持ってて心がない人ってそういうことするよねっていうのと。
あとはまぁ、ああいう、職人が時間をかけて努力して作り上げたものにこそ本当の「美しさ」がある気がしたのでわたしはそこも泣いてしまった。
そういう創造力こそ何にも代えがたい美しいものじゃんと思って…。

あと、普通にマークストロングが好みのタイプすぎた。好き。

色んなことに目をつぶればすごくいい作品だったことには変わりないと思うんだけど、目をつぶらないといけないことがそもそも良くないのかな、なんて思ったりもしてよく分からない。

コンディション的にも情緒的にも不安定な中ではあったので、後からみなおしたらもっと違うふうに思うのかなぁ。


とりあえず、観た直後の感想としてこれは残しておきたい。


あと、自分が一番共感したのはジャスパーだった。いつまでこうしてなきゃいけないんだろうみたいな、なんていうか。
「私たち家族でしょ?」って言われちゃったら見捨てられないあたりとか、それを分かってて甘えられてると知ってても力になったりとか、なんかもうほんと分かるよとしか言えない。
アイツも自分の人生を歩めればいいんだけども。
あんなエステラやホームレスと一緒に生きていくこともアイツの人生なんだろうから、それはそれで抱えていかなきゃいかんのだろうな、とか。それはそれで愛すべき人生なんだろうなあとか。

そんなことも感じたりした。

わたしも、こんなわたしと関わってくれる人達や見捨てないでいてくれた人に対してはせめてそうありたいと思う。

ジャスパー、頑張ろうな。
いつか誰かにちゃんと愛してもらえたり誰かをちゃんと愛したり出来たらいいね。
てづか

てづか