やわらか

軍旗はためく下にのやわらかのレビュー・感想・評価

軍旗はためく下に(1972年製作の映画)
4.2
新文芸坐『映画を通して反戦と平和を希求する映画祭』の一本として。
 
完全な第2次大戦モノではあるけど直接の時代設定は戦時中ではなく、終戦後26年を経た1972年に、ニューギニア戦線で脱走兵として処刑された日本兵の寡婦が夫の死の真相を求めて生き残りの軍人を訪ねて回る話。段々と明かされる戦場の実情の描写は、最近で言えば塚本晋也監督がリメイクした「野火」に近いものだけど、当時の絵と画質と俳優の演技により一段と凄味の増したものになっている。
 
実際この作品のポイントは、戦争時から今ほど時間が経っておらず、制作者・演技者が同時代を体験出来ていたことだと思う。その時点での彼らにとって、このシナリオ、演出にリアリティがあり、映画として表現できた。自分はこの映画よりも後に生まれているけど、子供の頃にはまだ周りに戦時を体験をした人が居たし、話を聞くこともできた。だから映画としても時代性も含めて受け取ることができる。

ただ、作品内であからさまに提示される反戦の主張や日本軍の描写、それに伴う戦後的な政治的スタンスが現代とは大きく異なっているので、同じものを撮ることはできないし、今後表だってソフト化されたり、若い世代に受け入れられることはないと思う。
 
そのことが(作品の中でも既に示唆されている通り)、いかなる経験であれ世代の制約を超えて伝え続けることができない、という残酷な事実を表しているのかな。
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