よしまる

ル・コルビュジエとアイリーン 追憶のヴィラのよしまるのレビュー・感想・評価

3.7
 邦題こそコルビジュエの名を冠しているものの、中身は不世出のデザイナー、アイリーングレイの伝記と言って間違いはない。また、建築家のアイリーンとジャンバドウィッチの愛の物語という見方もまた正しい。

 遅咲きながら気鋭のデザイナーとして注目を浴びていたアイリーン。作品中では軟派なジャンがクソ男を発揮しまくって彼女を引っ掛けたように描かれているけれど、実際には彼女の14歳も歳下の男への燃えるような恋心が作らせたのがE1027であったという説もあり、だからこそコルビジュエの落書きに激昂したのではないかと推察される。
 しかし映画ではジャンが名声欲しさにコルビジュエを担いで彼女の名を隠したようなことにもなっており、なんだか一度観ただけでは理解が追いつかなかった。
 
 途中に出てくる日本人にも馴染みの深いシャルロットペリアン。彼女の手がけた家具たちもまたコルビジュエの作品としてLCという名を冠して販売されたけれど(進撃の巨人のリヴァイ兵長の座ってる赤い椅子もそのひとつだね)、ペリアンとジャンが出来てたとは知らなかった。ここでもまたジャンの入れ知恵が働いてたのかな?とこれまた余計な想像w
 今回はアイリーンが主役なのでペリアンの名を知らない人には単なるジャンの火遊び相手みたいにしか描かれず残念。

 そのぶんアイリーンが最後までジャンを愛し続けたのはとてもよく伝わってきたし、舞台装置のようなインテリアに舞台じみた芝居が溶け込むのは見ていて惚れ惚れした。ちな美術監督はウッディアレンのミッドナイトインパリを手がけたアニーシーベル。

 コルビジュエがE1027を取り戻すために必死になったり近所で溺死したりというのは史実通りなのだけれど、なぜそのような行動に出て、あんな末路を辿ったのか、ただ史実をなぞるのではなく突っ込んだ脚色も見てみたかった。
 
 結局のところ、コルビジュエの隠蔽作戦のせいでE1027がアイリーンの作であると世間が知るのは彼女の死後のこと。

 アイリーンがマルセルブロイヤーより以前にスチールパイプを用いて作ったサイドテーブル(このネタをさりげなく挿入してたのも面白かった!)が2階から投げ捨てられるのを見たコルビジュエが「歴史的価値のあるものなんだぞ」と嘆いているシーンがあるが、あなたのおかげであのテーブルでさえアイリーンの死後まで再生産されることは叶わなかったんですが!

 演出としては面白くすごく楽しめたぶんだけ、コルビジュエ自身については何を描きたかったのがちょっとブレてしまって、単に理屈ぽくて嫉妬ぷかいオッサンでしかなかったのがやや微妙だった気がした。

 とまあ、とりとめもなく半端な知識で書き散らしたけれど、「欲望の価格」という意味深な原題の意味についてもいろいろと思いを巡らせてみたもののしっくりした感想に至らず断念。自分とてタイトルにコルビジュエというワードが入ってなければ観ていなかった可能性も否定できないので、大きなことは言えないww