MikiMickle

サスペリアのMikiMickleのレビュー・感想・評価

サスペリア(2018年製作の映画)
3.7
監督 ルカ・グァダニーノによるリメイク。

時は1977年。世界的に有名な舞踏集団マルコス・ダンスカンパニーのオーディションを受けるため、アメリカから夢を描きやってきたスージー・バニヨン(ダコタ・ジョンソン)。
原始的生活をおくるキリスト教メノナイト派に生まれ育ち、ダンスの教育すらもちろん受けたこともなかったスージー。にも関わらず、その力強い魅力はカリスマ振付師マダム・ブラン(ティルダ・スウィントン)の目に止まり、瞬く間に主役の座を得る事に。
時同じくして、ドイツ赤軍に参加していた団員のパトリシア(クロエ・グレース・モレッツ)が失踪する。彼女を診察していた老いた精神科医クレンぺラー博士は、舞踏団に疑惑を持ち真相を探ろうとする……


とりあえず、ネタバレと考察無しに感想を言うのが非常に難しい映画。
1番最初に感じたのは「アバンギャルドで政治的な嘆きのアート作品」だという事。

リメイクであるものの、リメイクではない。
軸はオリジナルに従っているものの、ベクトルが違うというか、完全なる再構築だなと思った。

オリジナルとは変わり、
舞台も東西が分裂しドイツ赤軍によるテロで不安定なベルリンに移し、
アルジェントの極彩色を捨てて色味を極限まで抑え(唯一の赤が逆に映える)、当時のベルリンの雰囲気を見事に再現している。
ゴブリンの不協和音ではなく、今作が初の映画音楽となったレディオヘッドのトム・ヨークの現代的であり不安を感じさせる音がさりげなくじっとりと響く。
男をほぼ排除して描く女性の世界は、当時のフェミニズムの流れを描き、“女”が戦争中にいかに生きてきたのかを示し、本筋へと繋がる。

オリジナルの主人公は恐怖に恐れおののいていたが、今作では全く違ったアプローチでスクリーンで前衛的コンテンポラリーダンスを踊りまくる。バレエシューズを脱ぎ捨てて。その存在も全く違う。

その舞踏の意味もまた、深い意味がある。キリスト生前からあった魔女というものは、荒々しさと肉体と精神を表す舞踏によって魔術的な意味があった。その土着の信仰と意図するものが見事にサバトと化している美と恐怖のシーンの数々には、オリジナルに魅入られた監督の長年の構想と再構築の素晴らしさを感じた。

ナチスとその後の社会情勢、ドイツ赤軍、メノナイト派、フェミニズム、舞踏、魔女、迫害、分断、母、己、嘆き……様々なものが152分の中で融合していき、衝撃のラストを迎える。

発表後に賛否両論が巻き起こったのも頷ける。この作品、見た人それぞれに感じる事はかなり様々であろう。
私としてはこれはホラーではないと思う。ラスト含めホラー愛を感じさせるようで感じない描写にはどこか違和感も感じもする。逆にアルジェントを意図しているのか?おじいちゃんのあれは必要か? などという突っ込みもある。が、それ以上に細かな深い描写への考察で頭がいっぱいになる。

名作のリメイクというものがある種のファンサービス的オマージュがメインとなっている作品が多くある中で、このルカ版はオリジナルへの深い愛を感じつつも、思い切った転換を成し遂げている。77年のドイツの状態を深く考察し、問題点と魔女とを深く繋げて訴えかけ、着地点をも独自のものにした度胸と世界観は拍手に値する。
「マザー・サスペリウム」の意味する「嘆きの母」の描写も独自のもの。名作リメイクとして素晴らしいアプローチだったし、様々な事が絡み合う深みと狂気のある深い深い作品だった。そして、クレンペラー博士の話だったのではないかとも。恐ろしく深い。

あ、ホラー目線でいうならば、こんな死に方絶対にしたくないランキングベスト2なシーンありw 本気で嫌だ(笑) あと、かなりどうでもいいけど、背中マッサージするカギ状の器具を見る度に「サスペリアだ‼」って思っちゃうと思うw
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