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テオレマのkuuのレビュー・感想・評価

テオレマ(1968年製作の映画)
3.8
『テオレマ』
原題 Teorema
製作年 1968年。日本初公開 1970年4月11日。
上映時間 99分。
詩人・作家・映画監督として活躍したイタリアの異才ピエル・パオロ・パゾリーニが、ブルジョワ一家が謎の訪問者によって狂わされていく姿を描いた異色ドラマ。

ミラノ郊外の大邸宅に住む裕福な家族。
父親は多くの労働者を抱える工場の経営者で、美しい妻や子どもたちに囲まれ、平穏な日々を送っていた。
そんな彼らの前に、ある日突然見知らぬ青年が現れ、一緒に暮らしはじめる。
家族は青年の妖しい魅力と神聖な不可解さに狂わされ、青年が去ると同時に崩壊への道を突き進んでいく。。。

『コレクター』のテレンス・スタンプが謎の訪問者を演じ、エンニオ・モリコーネが音楽を手がけた。

テレンス・スタンプは感情的な響きと印象深い共鳴を伴って、パゾリーニ監督の描く『テオレマ』の崩壊した家族の中に入り込む。
映画を見て最も感動する瞬間は、あらゆる合理的説明がなりたたへんように思えるが、深い確信をもって演出されている時。
そないした瞬間はまさしく超越的と云える。
と云うのも、観てる側が映画そのものにおいて判断を保留し、別の意味の次元を探求することを要求するからです。
今作品にはそうした瞬間が豊富にありました。
一番印象にのこってるのは、誘惑の瞬間。
家族の一員がテレンス・スタンプに見とれる時の表現。
息子の遠慮がちの尊敬、
娘の怯えた無理解、
母親の奔放な欲望、
父親の信頼を込めた承認、
ホンで何よりも、メイドの精神的な熱情。
そのまなざしのそれぞれが小生の無意識の中に聖画のようにしまい込まれている。
今作品では、それぞれの関係が激化された現実性を獲得して、それが劇的事件をブルジョワー家の凡庸な儀式からギリシャ神話の高みへと運ぶ。
今作品は自発性と豊かな単純さで撮られていましたし、そのことに心から感動する。
テレンス・スタンプの演じる人物が父親の両足を自分の肩に乗せ、彼を慰めようとする時、
メイドが悲しそうにスカートをまくり上げ、奇妙な闖入 者を喜ばせようとする時、
息子が白いカンバスに放尿する時。。。
今作品の多くのシークエンスが観てる側を動転させる。
パゾリーニはスクリーンに超越的体験の真の本性を伝える数少ない映画作家の一人と云える。
見事なキリストの肖像『奇跡の丘』(1964年)で、彼は自らの洞察の純粋な誠実さによって、ある信仰の感情を伝えることに成功している。
彼の映画は彼の信念において情熱的であり、その形式において純粋であり、その洞察において深い。

余談ながら、『テオレマ』って『定理』って意味らしくて、もともと文学者として知られる監督のパゾリーニは当初、神性を帯びた『訪問者』とブ ルジョワー家との愛の話というアイディアを悲劇として構想したそうやけど、同題名の小説(邦訳あり)と映画台本を同時進行で書き上げた。
今作品の発表とほぼ同時に、パソリーニは詩や 小説は今後書かないと宣言した。
今作品はヴェネツィア映画祭に出品され、ラウラ・ベッテ イが主演女優賞を受賞、同時に国際カトリック映画事務局賞 を受賞した。
このことがカトリック界で物議をかもし、わいせ つ罪に問われて裁判となったが、パゾリーニが勝訴したそうな。
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