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静かなる復讐のevergla00のネタバレレビュー・内容・結末

静かなる復讐(2016年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

【印象を疑え】

カメラを回したまま車内から車の転倒を映し出すオープニング。俳優さん、よくぞご無事で…。この激しさから一転物事は比較的淡々と進みます。

人の第一印象は数秒で決まると聞いたことがあります。本作の登場人物達、そしてこの映画全体も、その第一印象をことごとく覆す作りになっています。単なる復讐モノではないようです。

主人公Joseは、観ているこちらが戸惑うくらい、無表情を貫き通します。おとなしくて、無口で、感情を露わにしないので何を考えているのか分からないおじさんという印象。女性を誘う時も、復讐する時も、変わらない表情。しかし事件前のホームビデオでは屈託のない笑顔を見せています。事件が彼の内面をも変えてしまったのだと分かります。

妻の家族からは快く思われていない、短気でムショ帰り、強面のCurro。捕まっても仲間を売ることはせず(売れば妻と家族がもっと辛い思いをする)、自分だけ刑に服す所を見ると、仲間からすればとても(都合の)いい奴であり、見方を変えれば友人・家族思いの誠実な面を持ち合わせているとも言えます。

他にも… 犯人探しの過程で尋ねた、如何にもワルそうなチンピラ風の若い男性達。しかし返ってきたのは、留学生だからこの辺のことは分からない、という意外な答え。え?その派手な刺青で?と疑いたくなりますが、もしかしたら本当に学生なのかも知れません。

お揃いのジャージ姿で男2人が、ダブルベッドの部屋に泊まる…。ラブラブのおっさんカップルか?と如何わしい視線を送る宿の亭主😅。それかスポーツ試合の帰りとかにも見えます。まさか1人は復讐のため、1人は妻子を救うため、強盗犯を捜索中とは露ほども思わないでしょう。

罪を逃れた犯人達はと言うと、これまた思いがけず非常に愛想の良い人もおり、(影でつまらない犯罪を継続していても、)家族や仲間に愛され、社会に溶け込んで暮らす市民の一面を持ちます。

人生を謳歌している犯人達と比べ、動じることなく淡々と復讐を遂行していくJoseの方が、むしろ冷酷極まりない人間のように見えてきます。被害者と、彼の復讐に加担することになった加害者という対極に位置する2人の視点から、一つの事件を多面的に見つめることができます。

Curroだけが生かされたのは、既に法の裁きを受け服役したからでしょう。復讐された犯人達は自首することもなく、また何の社会的制裁すら受けていません。Joseが奪われた幸せをのうのうと享受している犯人達。彼らの今の幸せは、他人の人生を奪い、不幸の底へ突き落とした後に成立しています。決して罪は消えないこと、過去の過ちは必ず追いついてくるという真実が、Joseの素人とは思えない、迷いのない復讐によって突きつけられます。しかしある日突然、友を、夫を、父を失うことになる周囲の無実な人々は、またJoseと似た苦悩を抱えて生きることになってしまいます。そして、Joseは捕まるのか自首するのか、それとも逃げて新たな人生を送るのか…。

人間の中の善悪は、明確に区別できるものではなく、白っぽくなったり黒っぽくなったり流動的な灰色なのかも知れません。

強盗に至るまでの具体的なきっかけや、Joseがどのくらい前からどうやってAnaのbarに足を運ぶようになったのか、その辺りも知りたかったですが、恐らく本作の意図からするとそれほど重要なことではないのでしょう。
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