chiakihayashi

ハロルドとリリアン ハリウッド・ラブストーリーのchiakihayashiのレビュー・感想・評価

4.3
 映画『十戒』(1956)で海がまっぷたつに割れるシーンを最初にヴィジュアライズ(視覚化)したのは、絵コンテを描いたハロルド・マイケルソン(1920−2007)。彼と駆け落ちして結婚したリリアン(1928ー)は、1961年、彼が働くスタジオのリサーチ図書館でボランティアとして働き始める。やがてその図書館を前任者から受け継ぎ、1969年、スタジオが図書館の閉鎖を決めた際には、ハロルドの生命保険を担保に図書館を買い取った。その後、1980年にはフランシス・フォード・コッポラの誘いで図書館ごと移転、1997年にはスピルバーグらが設立したドリーム・ワークスに迎えられ、80歳で退職するまで、大勢の監督たちに信頼されてたくさんの名作に裏方として貢献した。ハロルドは『スター・トレック』(1979)のプロダクション・デザイナーとしてオスカーにノミネートされるが、リリアンの名前が作品にクレジットされたことはない(とはいえ、『シュレック2』(2004)に登場する国王と王妃の名前がハロルドとリリアンなのは、ふたりがハリウッドでどんなに敬愛されていたかを物語っている)。

 つまり、リリアンという女性はものすごく有能だったのだ。好奇心が旺盛で、粘り強くもあれば機転も利き、そのユーモアとウィットに富む人柄で無理難題にも応じて貰える人脈を開拓していく人間的な力を持ち合わせていた。たとえば、『屋根の上のバイオリン弾き』(1971)の時代に、ユダヤ人コミュティで女性たちはどんな下着を身につけていたか、なんて文献や資料があるはずない! で、リリアンはどうしたか? なぁんてエピソードが語られるのだ。

 そんなリリアンが、妻として、母として(長男は当時、誤解や混乱も多かった自閉症と診断されていた)の〝愛の生活〟と、映画製作の小さな一齣として自分自身を開花させ、〝仕事生活〟を楽しんだかが見どころのドキュメンタリー。
chiakihayashi

chiakihayashi