小松屋たから

ライフ・イットセルフ 未来に続く物語の小松屋たからのレビュー・感想・評価

4.0
ほとんど事前情報が無いまま、たまたま空いた時間に映画館に行って観てみたら、公開規模に比して、結構、壮大なストーリーで驚いた。

二つの大陸にまたがる数十年にわたる人間の愛と生の連鎖を描いた優しい叙事詩。

「パルプ・フィクション」にオマージュを捧げていることは映画内で様々な形で明かされているのだが、まさしく、同じような手法で、ニューヨークで最愛の妻と暮らす男の人生、スペインのアンダルシアのオリーブ農園の一家あれこれ、という、一見、何も関係が無さそうな二つの物語が、一つの事故という接点を得ることで巧みに絡み合い、関わった人々の哀しみと喜びを、回顧、共有していく様が描かれる。

幸せも不幸も永遠には続かない、たとえ、自分の世代で何かが変わらなくても、未来の受け手が夢を繋いでいってくれるかもしれない。今、自分が話している何気ない一言、ふと行っている動作の一つ一つが、いつか世界中の誰かと結びついて、ささやかな奇跡を生み出すかもしれない。そんなことを静かに語り掛けてくる人間賛歌だった。

群像劇としてのクオリティも極めて高く、すべての登場人物に存在意義がある。監督が大ヒットTVドラマシリーズの製作総指揮を行っている人、ということなので、多くの登場人物をそれぞれ輝かせることに長けているのかもしれない。

そして、劇中で使用されるボブ・ディランの曲が「愛と喪失」という作品のテーマと見事に調和していて、メロドラマ風で作劇的な偶然の要素の不自然さを柔らげてくれる。

今の時代にそぐわない「血縁家族主義」「異性間結婚推奨」のように捉えられる可能性もあるし、時系列があっているのか、街並みなどの時代の再現が正確にできているのか、いくつか怪しげなところもあり、評論家を揶揄するような台詞もあるので、専門家筋には批判されそうな気もするが、多様性やマイノリティを否定しているわけでもなく、前向きな気持ちになることができる作品。

オスカー・アイザック、アネット・ベニング、アントニオ・バンデラス、少しだけだがサミュエル・L・ジャクソンといった有名どころも出演しているし、トリッキーな脚本構成も面白く、この複雑な話を2時間以内に収めた監督の手腕もあわせ、日本でも、もう少し話題になっても良い映画なんじゃないかなと思った。