カツマ

結婚演出家のカツマのレビュー・感想・評価

結婚演出家(2006年製作の映画)
3.6
一見ロマンチックで情熱的、煙に巻くのは謎めき立つ幻惑の終着点だった。夢と幻の間を行き来するかのような、カラーとモノクロ、二刀流的カメラワークが映画の中で映画を撮っているかのような錯覚を起こさせる。シチリアの浜辺で青い空と海を眺めながら、黄昏ているだけならば、複雑怪奇な運命もまたフィクションのまま消えていったはず。非常に謎めいていて、それでいてシンプル過ぎるラブストーリー。結婚演出家というタイトルからは想像も付かないほどに捻くれた作品だった。

イタリアの巨匠マルコ・ベロッキオによる2006年作品だが、映像自体はかなり古典めいていて、画質も悪い。が、それすらも監督の手中にあるとばかりに、カメラワークやセリフまでもが懐古的なオマージュ的仕様に舵を切り、意味のなさそうなカットをふんだんに含んでいるあたりに監督の悪癖スレスレのカリスマが炸裂しているかのようだ。映画界に一物を抱えたベロッキオの持論が皮肉たっぷりに述べられているある人物のセリフは、物語をぶった切るほどのインパクトでもあった。

〜あらすじ〜

映画監督のフランコ・エリカは有名な原作小説『いいなづけ』の映画化に向けて、オーディションでキャストを選別し、その場で演技をさせたりと自らで面接を行なっていた。そこへ謎めいた美女ボーナが現れるも、結局は監督に会わずに去って行ってしまった。
その後、フランコは女性問題で警察のガサ入れを受け、映画製作は頓挫。彼もまた逃げるようにシチリアへと渡っていった。
休暇先のシチリアでフランコは偶然結婚演出を行う男エンツォと出会い、結婚演出へと携わることになる。そこで再開したのがかつてフランコとニアミスしていた謎の美女ボーナであった。運命のように二人は出会い、そして惹かれあっていくのだが、ボーナは望まない結婚を目の前にしていて・・。

〜見どころと感想〜

思えばベロッキオの最新作『甘き人生』はソフトで易しく作られた作品だったということが分かった。この『結婚演出家』の世界観の方がどうやらベロッキオらしさが全開になっているようで、監督の自慰行為にも近い美意識がビシビシと突き刺さってくる。落ちぶれた映画監督が愛する女性の結婚演出をすることになるが、、という触れ込みはベースとしては合っているが、派生の仕方がかなり異様。王道のストーリー展開を望んでいると、ラストの解釈にはかなり困ったことになるはずだ。

ただ、ベロッキオの独特の撮影方法は相当に面白く、犬二匹を使ったシーンは即興性も感じられてスリリングでもある。
そして何と言っても劇中で登場する監督たちはベロッキオの生き写しに違いないはず。彼の映画界の評価制度へのジレンマをぶちまけているシーンでは、映画人としてのベロッキオの牙がその刃を未だに研ぎ続けていることを感じさせてくれた。
かなりおかしな作品だが、考察型の映画としての側面もまた魅力的だと思える要素だったのは間違いなかった。

〜あとがき〜

なかなか終盤の超展開が斬新な作品でした。一言で言うと変な映画です。イタリア映画っぽいアート感覚が前面に出ていて、古き良きモノクロ時代の映画に色をつけたかのようなレトロな質感が楽しくもありました。

イタリア映画祭の単発上映以外では、昨年『Viva!イタリア』にてようやく公開され、こうしてソフト化までされたのは嬉しいことですが、全く一般向けではない作品です。ベロッキオのちょっとした暴走を、ロマンチックっぽい箱庭で再現してみせたのは一つの技巧の現れでもあったのかなという気もしましたね。
カツマ

カツマ