福福吉吉

ありふれた悪事の福福吉吉のレビュー・感想・評価

ありふれた悪事(2017年製作の映画)
4.0
◆あらすじ◆
1987年の独裁政権下の韓国、刑事のカン・ソンジン(ソン・ヒョンジュ)は仕事に励みながらも妻子とともに幸せに暮らしていた。ある日、ソンジンは国家安全企画部の室長、ギュナム(チャン・ヒョク)に呼び出され、ソンジンが逮捕した男が連続殺人犯だと告げられる。それを信じたソンジンは証拠集めに奔走する一方、ソンジンの親友の記者のジェジン(キム・サンホ)はその捜査に疑いを持つ。

◆感想◆
民主化前の韓国を舞台に平凡な刑事が国家権力の命令により捏造捜査をすることになってしまう姿を描いた作品であるとともに、真実を掴んだ記者が国家権力によってなぶり殺される姿を描いており、国家権力の暴走とそれに抗うことの困難さを実感させるストーリーとなっています。

主人公のカン・ソンジンは聴覚障害の妻と足が不自由な息子を養う普通の刑事で、収入は少ないものの小さな幸せを大事にする人物でした。しかし、国家安全企画部のギュナムに指名されたことにより、暗雲が立ち込めてきます。

一方、ソンジンの親友で記者のジェジンは正義感が強く、弱者の気持ちを理解する好人物として描かれており、ソンジンと心を通わせる人物であると同時に、ソンジンの間違いを指摘できる人物としても貴重な存在でした。しかし、連続殺人犯の事件を追ううちに国家安全企画部の陰謀を知ってしまい、命を狙われます。これが観ている側の心を破壊する勢いで描かれていて、観ていてとても辛かった。

ソンジンも捜査をするうちに逮捕した犯人が本当に連続殺人犯か疑問を持ち始めるのですが、そのときには国家安全企画部の術中にハマっており、息子の手術や高価な車などで口封じされ、企画部の犬になってしまいます。そのまま狂い続けられる悪人だったらソンジンも幸せだったが、彼自身の正義感やジェジンのことなどから苦しみます。これも心に突き刺さりました。

終盤、ソンジンは抗いますが国家権力の猛威に敗北します。民主化前の韓国で国家権力に抗うことの難しさを痛感させるものでした。しかし、その一方で、ジェジンの死と国のおかしさに一般の人々が気づき始める流れもあり、一筋の光明のように感じました。

韓国作品で普段は脇役を演じているソン・ヒョンジュとキム・サンホですが、本作では見事なくらい主役として心を動かす演技をしていて、とても心を動かされました。

鑑賞日:2024年3月23日
鑑賞方法:Amazon Prime Video
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