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スクランブルのnetfilmsのレビュー・感想・評価

スクランブル(2017年製作の映画)
3.6
 いかついアラブ系の男に4100万ドルで落札された世界にたった2台(もう1台はラルフ・ローレン氏が所有)しかない1937年型ブガッティ。投資対象としても絢爛豪華な車を2人の男が盗み出す。まるで『ブリット』のスティーブ・マックイーンを彷彿とさせるような兄アンドリュー(スコット・イーストウッド)と弟のギャレット(フレディ・ソープ)は仲の良い異母兄弟である。ヨーロッパ全土で高級外車を盗みまくり、インターポールからも目をつけられるが、証拠は何一つ残していなかった。弟の華麗なドライビング・テクニックと、兄の危険を顧みない決死のスタントの合わせ技で華麗に盗みを繰り返す姿は、同じカー・スタントを扱った『ワイルド・スピード』シリーズよりも『オーシャンズ』シリーズに近い。地中海に近いフランス南部の港湾都市マルセイユは、丘陵に囲まれた街であり、まばゆい陽光眩しい海岸線の街で、『TAXi』シリーズや『トランスポーター』シリーズのロケ地としても知られている。ただ監督が意識したのは、前述の『ブリット』やマルセイユを意識した『フレンチ・コネクション』のような60〜70年代カー・アクションへの回帰だろう。だがそれは、70年代のアクション映画の雰囲気をなぞるだけに終わっていないか?

 『ワイルド・スピード』シリーズの近年のハゲ頭のアクション・スターたちのインフレ化の反動のように、異母兄弟のアンドリューとギャレット、そこに交わる2人の美女ステファニー(アナ・デ・アルマス)とデヴィン(ガイア・ワイス)が交差する物語はスッキリしているものの、その反面、他の登場人物たちの書き込みがいささか寂しい。最初に仲間になったレオンはまだマシだが、それ以外のドライバーたちの描き込みは物足りない。当初は底知れぬ怖さを感じさせたジャンヌ・モリエール(シモン・アカブリアン)も、対極に西ベルリン出身のクレンプ(クレーメンス・シック)が置かれた瞬間から、映画全体がアクションとしての強い結束点を持っていたのが、徐々に散漫な印象を観客に与えてしまう。ただ1937年型ブガッティ57SCアトランティーク、1962年型フェラーリ250GTO、ジャガーEタイプやアルファロメオ158らがマルセイユの街を疾走する姿は、監督の演出の不備やキャラクターの書き込み不足を払拭するようなパワーに溢れている。人間よりも車が魅力的な作品の中で、主演を演じたスコットのクリント・イーストウッドの若い頃を彷彿とさせる佇まいにやられた。特にアナ・デ・アルマスに引っ叩かれて困惑の表情を浮かべるスコットの表情は、父クリントと瓜二つで思わず綻んだ。
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