阪本嘉一好子

メランコリーの妙薬の阪本嘉一好子のネタバレレビュー・内容・結末

メランコリーの妙薬(2008年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

ジェンキンス監督は「構造レイシズム」にメスを入れた先駆者ではないか?

1991年、ロサンジェルスのロドニー・グレン・キング(Rodney Glen King, )事件後、すでに監督は社会に何が必要かを感じ取ってこの映画を作ったのではないか? すでに社会システムの中に存在している人種差別で、黒人が基本的人権を守れないこととか、キング牧師だけが非暴力・非服従で英雄扱いされ、社会を変えようとして功績を残した他の黒人は無視される存在になっているとか。これらの黒人の功績を紐解かなければならない。そして、伝えていかなければならないと思ったのではないか。これをジョアンとマイカ恋愛を通して発信したかったのではないか?

あくまでも、個人的な見解で、私のレビューに賛否両論があるとは思う。差別用語に気づいたら、それはあくまでも、この映画を分かりやすく説明しているのであって、ここで使っている言葉は、差別意識を助長するものではない。差別的意図はなく当時の時代背景を踏まえ、そのまま書いている。

黒人の血が入っているジョアンは顔の作りは黒人顔だが、肌は白く白人の中で同化しやすいと思われる。本人もそう思っているかもしれないが、社会からはそう見えるようだ。マイカは執拗なくらいに黒人としてのプライドを持っている。この二人が一日過ごしたことはお互いに知らないことを学び合って妙薬になったのではないか。そして、日本人で異文化好きな私にとっても、人種は違っても、妙薬になった。秘薬だね、この映画は。

単純に言って、日本人の私に、例えば、A:『私、寿司が好きじゃない』 B:『日本人なの?』という思考で、日本人なのに日本人のことをしていないのはなぜというようで、日本人だということに誇りをもちすぎることで、インターセクショナリティintersectionality (日本人だけにとらわれないで人間として幅広く見る)思考を失ってしまう。 あなたはマイカに似てる?それともジョアン? 答えは一つじゃないよ、みなさん、クラスで話し合ってみようがデーマだと思う。

たくさんの人がこの二人についてコメントを入れているが、私は「構造レイシズム」の中で二人の見解の違いに興味があった。

*ジェントリフィケーション(gentrification) と適正価格の住宅Affordable Housing

ジェントリフィケーション(gentrification) とAffordable Housingという(適正価格の住宅)だが、これについて討論している人たちはドキュメンタリー(Housing Rights Meeting 字幕) で二人はガラス戸から見ているような感じで?映されている。この人たちの会話の中で レント・コントロールという言葉が飛びかっていると思う。例えば、アパートを借りるとき、家賃がコントロールされていなかったため、大家の好きなように家賃を上げられる。サンフランシスコはこの時点で、家賃が好きに上げられるようになって行くようだと?? Affordable Housingをも増やしたいようだが。ここで、ある人がサンフランシスコのウエスト・アディション、フィルモアでは貧しい人々が家賃が払えず追い出され、バークレー・オークランドの方面に引っ越していくと。オークランドの人がオークランドでもすでにジェントリフィケーションが起きていて、貧しい人々は追い出されていくと家賃のコントロールとAffordable Housingの必要性について話し合っている。サンフランシスコが金持ちの人のものだけになって、クロゼットをアパートとして借りて、600−800ドル払うと。高すぎる、高すぎる!!と。

*インターセクショナリティ( intersectionality)

セルフ・アイデンティティーをインターセクショナリティ( intersectionality)としてみるか、それとも、人種だけでみるか。これがジェンキンスがリベラルと言えるサンフランシスコ市の人々をどう捉えているか黒人の一日のカップル、(ジョアン・マイカ)を通して観ていると思った。。 だから、この二人の一日だけの愛の物語と見るより、サンフランシスコのこれからの現状・変化を、特にマイカの目線や思考や見解を通して、(そこに、くわえられるのがジョアンの存在だが)見ている。
これがインターセクショナリティが意識にあるなしでは自分のアイデンティティーが狭まってくるか広がってくるかになり、重要なコンセプトだと思う。例えば、マイカを例に取ると、人間、黒人、男、サンフランシスコに住んでいる、熱帯魚のタンクを設置したり、魚を選んだりするのが仕事で、自転車に乗ることが好きで...となり、マイカのいうように、人間だと考える前に黒人だと人は見るが、黒人だけだというものではないと考えること。人それぞれによってインターセクショナリティがある。

ここで、私はインターセクショナリティ(intersectionality)という言葉を使ったが、この映画が制作されたときはまだ使われていなかった英語であると思う。米国でもインターセクショナリティ(英: intersectionality)は2017年ぐらいから米国教育界で使われ始めたと思う。 キンバレー・クレンショアーhttps://www.youtube.com/watch?v=ViDtnfQ9FHcが初めて使った言葉だと確信している。この映画は2008年にリリースされているから、ジェンキンスの頭の中にはすでに、どう自分のアイデンティティを見つめるかで、ジョアンにこの言葉、(アイデンティーは自分が黒人ということだけではなく、もっと幅広く考えるものだ)と言わせマイカに妙薬を与えている。しかし、マイカは自分を人間として考える前に、先にも言ったように黒人だと言っている。これはジェンキンスの素晴らしい問題意識であり、ここが大事なポイントだと私は思う。ジェンキンスは黒人特に男性は自分に「黒人」というレッテルをまず貼るだろうということを知っている。

*ブラックヒストリー月間と奴隷解放運動家

マイカはブラックヒストリー月間は一年間の中で一番短い月にあると考える人だと、ジョアンはいう。そして、ジョアンはカーター・G・ウッドソン(Black History Month, marked every February since 1976)はブラックヒストリーウィークにしたかった。フェデリック・ダグラスとリンカーンは同じ二月に生まれているから二月にしたと。アフリカン・ディアスポラ博物館(Museum of the African Diaspora(MoAD))を訪れている時は、二人の興味は一致して、大西洋奴隷貿易(Transaltlantic Slave Trade )のセクションで400年以上続いた奴隷制度で一人一人に奴隷解放運動家(Oluadh Equiano, Mary Prince, Jareiet Jacobs...など)がアメリカに奴隷として運ばれた経験を話す音声を聞いた。ジョアンはサンフランシスコに住んでいてこのアフリカン・ディアスポラ博物館の存在を知らなかったと言っている。

はじめから、会話のパターンが黒人に誇りを持っているのか、さらにいうと、「構造レイシズム」に問題意識があるのか、それとも、ジョアンの一部である、黒人の意識を高めたいのか?不自然に黒人に囚われる話題が続く。ここがジェンキンスのポイントなんだけどね。

私の好きなシーン

ジョアンがマイカのアパートに一緒に行くが、その時、壁にあるポスターに興味を持つ。ここは私は詳しくは理解していないと思うが、マイカの家族の住んでいた、サンフランシスコの黒人の多い地域、ウエスト・アディション(West Addition Area )は1962年にすでに、築67年、住宅が復旧されたようだ。マイカはサンフランシスコは美しい街だが、1962年以前、問題があったことを忘れているようだと。そして、ミッション・ベイMission Bayという内海の地域はまだこの問題を背負っている老朽化している地域だと言ってると思う。つまり、黒人の多い地域は一部は変わっていってるが、まだまだ、住宅事情の悪いところが多いんだと言ってると思う。
ここからが圧巻だ。
ジョアンはこれを「忘れない」と取っている。何しろジョアンは黒人の歴史やこれからの黒人の課題にマイカより関心が強くない。
マイカは街は嫌いだが、このサンフランシスコの街は好きだと。街並み、丘、景色、霧など全てが好きで、街の角に立つと、必ず、景色が見られるようになっている。ビートニックス、ヒッピー、ヤッピーなど...上中産階級でなくても、その一部になれると言っている。この意味は、景色や文化などの歴史は貧富の差なく楽しめたり、楽しむことができるという意味だと思う。この世には金がないと楽しめないものがある。例えば、スキー、でも、サンフランシスコの街は全ての人のものだと。唸るねえ!!この見解!このマイカが一番好き。この先、二人はどうなるのか、鑑賞者が判断できるところがジェンキンス監督のいいところね。

マイカがいつも支払いを!?
Casiotone for the painfully alone の音楽が気に入ったので、載せておく。
https://www.youtube.com/watch?v=mYQyGze-QJw Casiotone for the painfully alone - New year's kiss

https://www.youtube.com/watch?v=r8YEzoZMaYw Casiotone For The Painfully Alone - Jeanne, If You're Ever In Portland (Daytrotter W/The Donkeys)

調べてみたが、ジョアンが着ているT-shirtsのローデンは『Wanda』の監督、バーバラ・ローデンでインディー映画の先駆者なんだね。