絶対の客人

伊藤くん A to Eの絶対の客人のネタバレレビュー・内容・結末

伊藤くん A to E(2017年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

Twitterのネタバレ補足♪

「全く同じキャストを使ったドラマ版のリメイクという印象をガラリと変えた要素」とは…

ベストセラー作家の矢崎莉桜(木村文乃)は、「伊藤」という男に振り回される四人の惨めな女性の恋愛相談に乗り、彼女たちをモデルに恋愛ドラマの脚本を書き始める。

しかし終盤その伊藤が、莉桜が講師を務めるドラマ研究会の塾生「伊藤誠二郎(岡田将生)」であり、彼が莉桜と同じ内容の脚本を書いてコンペに出そうとしている事が判明する。


つまりこの物語には、矢崎莉桜が書いた脚本と、伊藤誠二郎が書いた脚本の二通りの脚本が存在していることになり、ドラマ版は矢崎莉桜の…映画版は伊藤誠二郎の脚本だと考えてみれば、これは一つの物語の表と裏。

ちなみにドラマ版は、伊藤の容姿を全く知らない莉桜が、四人を振り回すそれぞれの「伊藤」を自分の身近にいる男性(田中圭、中村倫也、山田裕貴)に置き換えて…要は莉桜の妄想の中で進んでいき、最終章の最終話でついに正体が…という展開で、主役は当然矢崎莉桜。

一方映画版は最初から本物の伊藤が登場して彼目線で物語が進んでいき、主役は伊藤くん。つまり女性目線のドラマと、男性目線の映画…ということになる♪

正直ドラマの続編だと思って観に行ったら、ほぼほぼドラマと同じ内容だったので最初はちょっとガッカリした。でもその要素のおかげで同じキャストと同じストーリーを違う演出とロケーションでみせた事の意味を感じて、印象は良くなった♪


「怪物級イタ男の伊藤くんだけど、本当にイタいのは伊藤くんだけ?」なのか…

この物語に登場する四人の女性+莉桜(A〜E)は、伊藤に振り回され、傷つけられ、自分の惨めさに打ちのめされる。なぜなら伊藤の存在は、自分を映す鏡だったから…

A島原智美(佐々木希)
5年前に合コンで知り合った伊藤とずっと付きあっているつもりでいるが、SEXはした事がない。伊藤と早く深い関係になりたくて、理想の女性になろうと努力し貢ぎ続けるが、好きな人ができたとあっさり切り捨てられる。ある日いつもは都合よく貢がれている伊藤が、20万という高額な貢ぎ物に怖気付き、「そういう所が嫌い」と突き返され、くだらない男と別れを告げる。

B野瀬修子(志田未来)
今の自分は仮の姿で、理想の仕事に就くまでの繋ぎとして、塾の事務のバイトを続けている。同僚の伊藤に「感性が同じ」だとしつこく言い寄られ困り果てているが、そんな伊藤から貰った物はちゃっかりといただく。ある日自分を変えるというセミナー会場で偶然伊藤に出くわし、「本当の自分を取り戻したい」という伊藤に「今の自分も本当の自分」だと言い放ち、決別する。

C相田聡子(池田エライザ)
今まで何人もの男と付き合ってきたが本気で好きになった事はなく、親友が本気で好きだという伊藤とうまくいきそうだと聞き嫉妬心から伊藤を寝取るが、ベッドで親友の惨めな姿を散々聞かされ、こんなくだらない男とつまらない嫉妬からSEXした自分に嫌気がさし、まるで自分に言い聞かせるように「キモいんだよ!」と伊藤に言い放つ。

D神保実希(夏帆)
今まで誰とも付き合った事がなく、うまくいきそうだと思っていた3年間想いを寄せる伊藤とラブホテルに行ったその日に訳も分からずフラれるが、処女が重いというなら処女を捨てると、知り合いの男とホテルへ行った先で伊藤に出くわし、「彼の事は好きじゃないから私と付き合って!」と残酷な宣告をし、結果二人から愛想つかされる。

E矢崎莉桜(木村文乃)
自分が構想を練った脚本を、今まで軽蔑し上から目線で軽くあしらってきた伊藤に取られそうだと危機感を感じ、伊藤の脚本は自分が書いたものだと上司に報告した事がバレ、仲間や塾生から嫌悪の目で見られるようになる。初めから勝負する気もなく、リングに上がらなければ負けることもないという伊藤から、「そんな惨めな思いまでして勝ちたいか?」と問い詰められ、「何回負けても何度でも勝負する」と言い放つ。

伊藤誠二郎(岡田将生)
言い寄られるのが苦手で、Aの自分を気遣ってした行為に対しても「そういう押しつけがましい所が苦手」とケチを付けるくせに、しっかりその恩恵はいただく。

自分と感性が似てると感じた人間にしか好意を示さず、「今の自分は仮の姿で、本当の自分はまだ隠している」というBに同じ感性を感じて好意を持ち、しつこく付きまとう。

誰かを本気で好きになったことがないため、異性といい雰囲気になっても途中で怖気付いて逃げ出すためこの年まで童貞だったが、嫉妬に駆られたCに半分ムリヤリ童貞を奪われ、「Cは僕の事を何でも分かってくれる」と勘違いして惹かれ始める。

童貞だから、処女のDとどう行為に及んでいいか分からず、「丸投げされても困る」と突き放し一方的にフる形になるが、Cから残酷な宣告をされた後、唯一繋がってるDに「別にフったわけじゃない」と再度関係を迫ろうとするが、好きでもない男に処女を捧げようとしているDを見て、「どうでもいいや」と愛想を尽かしその場を去る。

「リングに上がらなければ負ける事もない」と初めから勝負を諦めているため、勝負に負けて惨めな姿をさらしているEを上から目線で罵るが、そんな自分に初めて真正面からぶつかってきたEと対等の立場でお互いの考えをぶつけ合い…

彼女たちは最後に伊藤と決別するのだが、それは結果として自分自身のダメな部分との決別でもあり、それが彼女たちを一歩大きく成長させることになる。


正直いうとこの伊藤というキャラクター、自分は憎めないし嫌いになれない。むしろ伊藤の過去を色々想像して愛おしくさえ感じてしまった。

きっと28年の間、彼には色々な事があったんだと思う。もしかしたら最初は負けず嫌いだったのに、その勝負に一度も勝つ事ができずに負け続けたのかもしれない。もしかしたら大切な誰かに裏切られたのかもしれない。

だったら勝負する以前にリングにさえ上がらなければ…人と深く関わりさえしなければ…負ける事もないし裏切られる事もない…

ドラマにはなかった映画だけのあのラストのワンカット長回し&長台詞…莉桜と伊藤の口から乱射される言葉が見事に突き刺さった。

ただその言葉からは「自分が傷つきたくない」という自己中心的な感情しか見えてこず、自分が深く関わってしまった「誰かを傷つけたくない」という想いは見えてこない。

ただそれは、本当にダメな事なのか?とふと思う。

誰かを傷つけてしまう…結果自分自身が嫌われる事を覚悟で行動に出ることのできる伊藤は、ただの自己中で切り捨てられるだけのクズなのかもしれないが、同時に、逃げてばかりいる人間よりは、ある意味強いと思えてしまう。


演じた役者さんに関してはとにかく全員素晴らしいが、とにかくなんといってもイタ男の伊藤を演じた岡田将生さんがダントツで素晴らしい!

そんな岡田さんと【天然コケッコー】の頃からの役者仲間である夏帆さんが、お互い童貞&処女ってのもなんか面白いし、【みんなエスパーだよ!】のキャラクター平野美由紀を、ドラマで演じた夏帆さんと映画版で演じた池田エライザさんの新旧美由紀が、親友同士でイチャイチャしてる画も観てて楽しい♪


この作品、あくまでドラマ版と映画版を表と裏のセットとしてみれば素晴らしい。ただ個々で見比べてしまうとどうしても、ドラマ版の演出、脚本、そしてオープニング曲から毎話変わるクライマックスのスピッツの楽曲含めた音楽全般が、映画版を大きく上回ってしまう。

とはいえ、ドラマの脚本(作:矢崎莉桜)の方が出来が良く、映画の脚本(作:伊藤誠二郎)の方が出来が悪いという所まで深読みしてみると、それもまたある意味リアルで面白い♪

なんだかんだ言って、恋愛映画であると同時に自分たちの仕事に対する姿勢や人間関係をも見つめ直させてくれる、反面教師的人生賛歌であるこの作品は、誰が何と言おうと自分は好き♪