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シンプル・フェイバーのnetfilmsのレビュー・感想・評価

シンプル・フェイバー(2018年製作の映画)
3.9
 世界に向けて発信されるVlog映像、固定カメラの前に佇むのは、ステファニー・スマザース(アナ・ケンドリック)というどこにでも居そうなごく普通の女性。文節を区切りながら、決めポーズをとる姿はどこかわざとらしいが、息子のマイルズを愛し、学校の活動に積極に参加しているのは確かで、周りのママ友(orパパ友)たちは、そんな彼女の自意識過剰な行動を半ば呆れながらも楽しんでいる。ステファニーのいかにもお人好しで、頼みを聞いてしまう性格に乗じて物語は、ママ友カーストの存在を明らかにしながら、エミリー・ネルソン(ブレイク・ライヴリー)と出会わせる。平々凡々な彼女と、キャリア・ウーマンで上昇志向の強いエミリーとの対比。高額なローンを組みながら、経済的に恵まれたエミリーはかつては作家だったがスランプに陥り休業し、今は英語教師のショーン(ヘンリー・ゴールディング)という浮世離れした夫を伴侶に持つ。世界に自己発信したい欲求を持つステファニーが、エミリーに憧れるのも無理もない話で、最初から2人の力関係は、積極的なエミリーの頼みをステファニーが聞くことで成立する。

 だが今作が脚本的に面白いのは、エミリーとステファニーの力関係が逆転することにある。サバーバン・ノワールの幕開けとなるエミリーの失踪はいかにも『ゴーン・ガール』的だが、当初は従順に見えたエミリーの闇の部分にフォーカスすることで、彼女をミステリーの解決者から、物語を二転三転するしたたかな女豹へと変える。その瞬間、サスペンスを基調とした物語はコメディの要素も付け加えるのだが、その辺りを許容出来るか否かが今作の評価を最も分けるポイントになるはずだ。当初、死体が発見されて一件落着となるはずの物語は、ステファニーとエミリー、ショーンの三つ巴のパワー・ゲームに発展する。セルジュ・ゲンズブールやブリジット・バルドー、フランス・ギャルらのフレンチ・ポップスに彩られた物語は、あくまでジャンル映画に目配せしながら、何度も何度も力関係が逆転していく。その風変わりな魅力は珍作と呼ぶに相応しい。
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