Fitzcarraldo

トップガン マーヴェリックのFitzcarraldoのレビュー・感想・評価

3.5
1986年度の全米興行成績1位を記録しTom Cruiseを一躍トップスターへと押し上げた"Top Gun"の36年振りの続編。

カリフォルニア州にある高さ111mのVincent Thomas Bridgeから飛び降り自殺をした前作の監督Tony Scottに代わり、監督を務めたのはJoseph Kosinski。

脚本は"Transformers: Revenge of the Fallen"(2009)で第30回ゴールデンラズベリー賞の最低脚本賞を受賞したEhren Krugerと、"The Usual Suspects"(1995)でアカデミー賞脚本賞を獲得したChristopher McQuarrieと、"American Hustle"(2013)でアカデミー賞脚本賞にノミネートされたEric Warren Singerの3名が務める。

戦闘機乗りをスポーツものとして作った前作とは違い、仮想敵国とはいえ敵基地へ先制攻撃するというミッションが課されることで戦争賛美になりかねない。

コロナ禍により公開延期になったことで、ロシアによるウクライナ侵攻を目の当たりにしたあとで本作を見ることになってしまったので、これを手放しに喜べない気がしてしまう。

もちろん映画は虚構であるし、一概に現実を鑑みる必要はないのだが…しかし、この映画の中のやり口はザ・アメリカのお家芸ではないか?

大量破壊兵器を隠し持っていると難癖をつけてイラク戦争へと突入したあの傲慢で有無をいわさずに世界を巻き込む強引さはまさにMake America Great Again。

ロシアの軍事侵攻を誰もが批判していたのに、この何ヶ月でもう忘れてしまったのか?それとも慣れてしまったのか?敵国の領空侵犯を平然とし、敵基地に先手必勝の先制攻撃を加えるというこのプロットに違和感しかない。

それはそれとして…と前置きがあるのならまだいいのだが、そこに触れることなく手放しで絶賛している人たちが余りにも多いところが恐ろしくもあるなと。

こうしてプロパガンダも人々に涵養していくのだなぁと肝に銘じる。

前作の公開後に海軍への志願者が激増したということもあるので、やはりこのヒロイズムな描き方はプロパガンダの一貫と言って差し支えないだろう…国防総省の報道官が撮影チームに協力すると発言していることから見ても…。


ロシアを公然と批判しているアメリカだが、中身はどちらも大差ない。やってることは同じである。

力による一方的な現状変更は世界のどこであれ認められない。

いかに戦争が馬鹿馬鹿しいことだということをなぜ人間は学ばないのか?

先人達の声をなぜ聞かないのか?

こんなクソみたいな世の中に嫌気がさして死んでしまいたくなる。

スポーツとして描いている分には微笑ましく見れた前作も、戦争ということを多分に含んだ今作を喜んでいいのやら…

誰もが言うように、還暦前に身体を張ったトムの根性は素晴らしいし、絶対にホンモノでなくてはと突き通した映画に対する真摯な態度も本当に素晴らしいのだが…

単純に楽しめばいいんだけどね。

ザ・アメリカなオラつき方が透けて見えてしまいどうも気になってしまう。力こそ正義と言わんばかりの…自分たちがやってることに何の疑いも迷いもないところが鼻につく。

ロシア兵でさえ、ウクライナ侵攻に疑問を持ちながら進軍してるものもいると云うのに…何の疑問も持たずにヒロイックに自ら先頭きって隊を率いるマーヴェリックの浅はかなキャラが結局、裸でビーチバレーをしていたあの頃と何も変わってねぇなという…裸でビーチアメフトしてたし…薄っぺらい単細胞に見えてしまう。


まぁ本作の上映前に大瓶のビールをひっかけてたので、酔いに任せて細かいことを考えずに感情的になってしまえば、そこまで気にならないのだが…

ただどこもかしこもで大絶賛されていることに気掛かりなので注意書きとして記す。


Miles Teller演じるグースの息子ルースターがBARのピアノでJerry Lee Lewisの"Great Balls of Fire"を弾き語るのをBARを追い出されたマーヴェリックがグースと重ねて見るその眼差し…ここのトムの顔が最高で泣いてしまった。


このBARはカウンターでスマホを使ったら全員に奢る?って書いてあった?字幕が早すぎて追えなかったが…あとカウンターの中の人を侮辱したら?なんか2つ書いてあった気がする。

このルールはいいねぇ。
BARをやる時は真似しようかな。

さらにBARの天井に無数のマグカップ?が吊るされていた。量がありすぎて気持ち悪かったが、なかなか画としては面白い。こういう店も面白い。あれは何のカップなんだか…


グースの息子ルースターを守るために被弾したマーヴェリックも良かったねぇ。ここで大人しく死んでくれたらさらに良かった気がするが…そしてルースターが二代目マーヴェリックとなるべくトップガンの教官になってend…でいい気がする。

しかし不老不死のトム様が死ぬわけもなく…この辺は少年ジャンプ的といえばいいのか…主人公は絶対に死なないという。

絶対に死なないと分かり切っているから、面白くないというか…泣きどころも薄くなるというか…

最近、お酒が入ると妙に感情的になり、泣きやすい体質になってしまったから、まぁここでも泣くには泣きましたけどね。

ここで裏切って死んでくれたら…より良かったと思うけどなぁ…

出発前にマーヴェリックに一言だけとルースター。しかしマーヴェリックは帰還したら聞くと…

これもフリとして使えるからマーヴェリックが死ねば、伝えたかった一言がより感動的になると思うけどね。

当然のように生きてるマーヴェリック。
そこへすぐさま敵の戦闘ヘリが現れ、機関銃で狙われるのだが…マーヴェリック機が墜落してから、マーヴェリックを見つけるまでが早すぎないか?この敵機はどこにいたのよ?

滑走路がある基地から来たんじゃないの?着くの早すぎないか?

さらに、この基地を守る追撃ミサイルをあれだけ配備しているのに、すぐ近くにいるアメリカの空母には全く気づかないとかある?

こんなに早く墜落現場に駆け付けられる能力があるのに、ルースターがマーヴェリックを助けに戻ってきてるのには一切気付かないで撃墜されるとかある?無茶苦茶じゃない?

結局、助けた後すぐルースター機も撃墜されるという都合の良い展開に…ここまで戻ってこれないだろ?

さらに、ルースターの撃墜現場へ走って向かうマーヴェリック…画面で見る限りでも、墜落現場まで相当な距離がありそうなのに、一瞬で着いてしまう。ウサインボルトでもそんなに早く着かないんじゃない?

ルースターが地上に降り立ってすぐくらいのタイミングでもう着いてたんだけど…

なんだこれ?

マーヴェリックが撃墜されてすぐ敵機が現れたのに、ルースターが撃墜されても誰も来ないという不思議さ…

あの1機しかなかったんですか?

さらにさらに、ここから敵の滑走路がある基地まで歩いて向かうのだが、難なくとあっさり到着する。え?あの谷がある険しそうな地形を歩いて?しかも敵から全くバレずにそんな一瞬で着いていいの?

たまたま近くにあったってこと?
都合良すぎだろ?

敵地を攻撃してから逃げるのに、相当な距離を飛んでた気がするけど…その途中で撃墜されたのに…そんな日暮れもしない間に着けるわけないんじゃない?せめて暗くなれば時間かかって来たんだなって分かるけど…

さらに白昼堂々と敵の旧型戦闘機のF-14を盗み離陸して逃げる。そこへ迎撃にやってきた敵の第5世代戦闘機との性能差を戦闘機乗りの腕前とコンビネーションでカバーし撃墜していくのだが…

いやいや…第五世代戦闘機を持てる軍事力があるのに、なぜ重要拠点であるはずの基地に旧型戦闘機を置いてあるの?

しかも警備がザルというね…全く無防備で、いとも簡単に盗めてしまう。この辺もスターウォーズかなと。宇宙空間を簡単に行き来できる技術があるのに、警備がザルという…

このへんの細かいことは戦闘機のドッグファイトの迫力満点な素晴らしい映像で、見ている側を黙らせてしまうことに成功していると思う。

360℃の空間がある空において、いまどこに向かって何をしているのかを観客に分かりやすく伝える表現をするのは骨の折れる作業だと思うのだが、そこを完全にクリアしているのが素晴らしい。

空母で待機していたGlen Powell演じるハングマンが本部の命令に反して許可なく離陸して、絶体絶命のピンチだったマーヴェリックたちを守り、敵を撃墜。

ハングマンの独断で空母を飛び出したみたいになってるけど、そんなことできないだろ?オープニングで散々っぱら空母の離着陸を見せられたんだから、離発着するのにいかに人数が必要か見ている側は認識してる。それぞれの係の人がみんな上の命令を無視してハングマンを離陸させたってことでしょ?それは無理だろ?

敵はなんで空母の存在に気づいてないの?誰も空母を攻撃しないの?ここは敵国でしょ?領海も侵してるよね?あれだけ近くにいたら?敵国は基地1つしかないってことないだろ?他の基地から幾らでも空母を狙って攻撃しても良さそうなもんだけど…

仮想敵国の設定が随分と曖昧で、何だか適当だし、チグハグな印象を受ける。

第五世代戦闘機持てる軍事力があるなら、空母の接近に気づかないということはないんじゃないか?知らんけど…

あとは、ほぼ満員のお客さんがゆるゆるだった。

娘が急きょ帰ってきて男がいることをバレたくないJennifer Connelly演じるペニーは、マーヴェリックを2階の窓から帰らせる。飛び降りた目の前に娘がいるという…

こんな単純なことで笑いが起きていた。
いいお客さんだけど…ザル過ぎないか?

何時なのか分からないけど、あの小さい娘さんはどうやって帰ってきたんですかね?
友達の家に泊まるって言ってたのに、なんで帰って来たんですかね?帰るなら帰るで先方の親御さんから電話入るよね?勝手に帰ってきたりしないでしょ?アメリカは危険なんだから。それとも隣の家にでもいたの?この辺は適当なんだなぁ…


KAWASAKIの"GPZ900R A2"のバイクにまた跨ってくれるトム様は最高なのだが…なぜ一回しか乗らないんだろう?現代のニンジャである"Ninja H2 Carbon"に乗り換えてたけど…新旧の必要あったか?

意固地なマーヴェリックのキャラからして、ずっと愛車を大切に乗っている設定でいいと思うけど…大した理由もなく乗り換えてるのが違和感ある。


なんだか後になって気になる所が噴出したが、IMAXで見てる最中は王道ハリウッド大作には一定の満足感はあった。少し酔っ払って見れば、酔いなのかGなのか分からなくなって丁度いいかもしれない。
Fitzcarraldo

Fitzcarraldo